『国宝』と対照的な『木挽町のあだ討ち』の歌舞伎へのアプローチ 渡辺謙が魅せる“表と裏”

『木挽町のあだ討ち』歌舞伎へのアプローチ

 ネタばらしと書いたが、『木挽町のあだ討ち』は、実際には「本当の仇討ちを描いたものではない」ことが後半に分かるという、非常に面白い設定の作品だ。主人公の総一郎は、妹の許婚である心優しい菊之助が、首を討ち取る仇討ちなどできたのだろうかと疑問に思い、探偵のように、菊之助に関わった人たちに、一人一人聞き込みをする。すると、菊之助の父・伊納清左衛門(山口馬木也)が殺された本当の理由と、清左衛門と“仇”であるはずの作兵衛との真の関係が明らかになっていく。映画の冒頭では、北村演じる作兵衛は物凄い悪党として描かれるが、彼の人となりが分かってくるにつれ、後半の北村の柔らかい表情には心が温まる。北村の巧みな演じ分けに唸らずにはいられない。

『木挽町のあだ討ち』©2026「木挽町のあだ討ち」製作委員会

 金治をはじめとする芝居小屋の人々は、菊之助の“仇討ち”が成し遂げられているように“見せる”ために、裏方の能力をフル稼働させる。そのからくりはとても興味深く、こんな面白い見せ方があったのかと感動した。

 そんな裏方の人たちに支えられ、菊之助は完璧に“仇討ち”を“成し遂げた”ことにしなければならない。演じる長尾は、菊之助の美しく鮮やかな“仇討ち”を披露するために、複雑な殺陣に挑戦している。彼は、『室町無頼』(2025年)に続いての時代劇出演だが、とても板に付いていて素晴らしいと感じた。

 胸が熱くなり、涙が流れたのは、菊之助を大事に想う父親を演じる山口による名場面。彼は、『侍タイムスリッパー』(2024年)とはまた違った感動を届けてくれている。さらに、瀬戸、滝藤、高橋、正名が演じる芝居小屋の人たちと菊之助との関係にもグッと来るし、名探偵のような総一郎役の主演・柄本の快演も清々しい。

『木挽町のあだ討ち』©2026「木挽町のあだ討ち」製作委員会

 時代劇とミステリーの融合、心揺さぶる人間ドラマ、目を奪われる殺陣のアクション、そして有名な歌舞伎の演目の一幕と、見どころ盛りだくさんの『木挽町のあだ討ち』は、必見の1本としてお勧めしたい傑作映画だ。

■公開情報
『木挽町のあだ討ち』
全国公開中
出演:柄本佑、渡辺謙、長尾謙杜、北村一輝、瀬戸康史、滝藤賢一、山口馬木也、愛希れいか、イモトアヤコ、野村周平、高橋和也、正名僕蔵、石橋蓮司、沢口靖子
原作:永井紗耶子『木挽町のあだ討ち』(新潮社刊)
監督・脚本:源孝志
企画協力:新潮社
配給:東映
©2026「木挽町のあだ討ち」製作委員会
公式サイト:https://kobikicho-movie.jp
公式X(旧Twitter):https://x.com/kobikicho_movie

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