今泉力哉監督が杉咲花に託した全幅の信頼 『冬のなんかさ、春のなんかね』インタビュー

杉咲花への信頼

――今泉さんの映像作りを実現するうえで、杉咲花さんの演技への信頼はとても大きいと思います。「杉咲さんでよかった」と思った瞬間はありましたか?
今泉:たとえば第1話だと、山田線(内堀太郎)が書いている小説の回想について話す部分があって、杉咲さんがひたすら「うん」と何回も言うシーンがあるんです。あれは切り返しで、それぞれの寄りの表情を撮影していたんですが、編集の段階で「最初の“うん”から最後の“うん”まで杉咲さんの表情で押す」という判断になりました。“うん”と“うん”の間に微細な変化がすごくあって、切り返すと手のポーズなどがどんどん変わってしまう。だから一つのアングルで見せたほうが時間がつながると思って。もちろん内堀さんの声のお芝居、間がしっかり成立しているから片側で押せるというのもありますが、あのシーンなどは「杉咲さんでよかったな」と思いました。
——杉咲さんと内堀さんのやりとりは本作を象徴するシーンの一つだと思います。

今泉:ところどころ現場でセリフを足しているんですが、思ったより“しんみり”してしまったり、ちょっと“いいシーン”っぽくなりすぎたときに「違う違う、これじゃない」と思って、現場で調整するんです。具体的には、第1話の終盤ラブホテルで二人が寝っ転がっていて、山田が「なんで自分みたいな人と一緒にいてくれるのかな」と話して、沈黙があって……。台本ではそのまま帰るだけだったんですが、ちょっと“いい空気”になりすぎだと思って。そこで現場で文菜に「たしかに」ってセリフを加えました。照れも含めて、ちょっといじってる感じを足してもらったんです。台本にないセリフだから、杉咲さんも演技プランなどを用意してきたわけではない。そこで「たしかに」と言ってもらったときの話し方が衝撃で……。100点というか、こっちが考えてもああはならない。ささやかだけど、ちゃんといじっていることもわかる。あれをその場で出せるのはやっぱりすごいなと思って感動しました。すごく信頼しています。
――視聴者としても、杉咲さんでないと成立しないだろうなと感じる場面はいくつもあります。

今泉:ああ見えて彼女は、器用に何でもできるタイプでは全然なくて、その“器用じゃない”ところがいいんです。できないことはできないんだけど、完璧ではないからこそ魅力がある。逆に“できる人”が一歩ずれると“技術”になってしまうんですよね。杉咲さんはたぶん“技術”で演じたくないという感覚を人一倍持っている。目の前の相手と一緒に芝居をするという意識がすごくあるし、逆に“準備してきたものを披露する”みたいな感覚はほぼないんじゃないかなという気がします。
――得意・不得意な部分をお互いわかり合っている信頼があるわけですね。
今泉:そうですね。オリジナルだから余計にそうなのかもしれないですが、脚本やキャラクターについて自分が悩んでいる部分、たとえば「文菜って人物がよくわからないな」といったことも相談します。「これは言わないんじゃないですか」とか「これはしないんじゃないですか」とかそういうやり取りもします。それと今回の作品に関していうと、杉咲さんは演技やセリフを覚えるなど俳優がするべき最低限のこと以外の、現場周辺のことにも積極的に気を遣ってくれて。そういう方が真ん中にいてくれると現場の空気がすごくよくなるんです。撮影が始まって、まだ数日しか経っていない頃から、杉咲さんは「終わりたくない」と周囲に漏らしていたらしくて。私もたくさん現場を経験してきたのですが、今回の現場は少し不思議な空気が流れています。いつもより穏やかで特別な感じがして。それには杉咲さんの存在と、オリジナル作品が久しぶりなので、自分の過去作が好きな人たちの熱量もある。脚本の面白さで全員の熱が一つ上がっている。それを感じられる現場なんです。こんなしあわせなことはありません。
――本作はどんな視聴者に受け止めてほしいですか?
今泉:2つあって。まず1つめは、これまでの私の作品を好きだったり、作風を知っている人たちに楽しんでもらいたいです。そういう方々は「地上波のオリジナルドラマで、どれだけいつもの感じでやれてるの?」みたいな反応があると思うんです。観たら「うわ、いつもの今泉だ」と感じると思う(笑)。2つめは、自分のことをまったく知らない人たち。映画とテレビでは、作品に触れる人数が圧倒的に違う。つくり手の名前に興味がない人もたくさんいる中で、初めて自分のつくったものに触れる人がたくさんいるはずです。その人たちが、これまでにあった作品との違い、たとえば“大きい出来事が起きない”こと、居酒屋で横の席で喋っているような会話をドラマの中で観て、それが少しでも面白いと思ってもらえたら、今までの作品とは違う入口になる。そこから映画や他のドラマも観てみようと思うきっかけになるかもしれない。また、こういう温度の作品がつくられるきっかけになるかもしれない。そういう波及の仕方には興味があります。放送後の反応が楽しみです。
■放送情報
『冬のなんかさ、春のなんかね』
日本テレビ系にて、毎週水曜22:00~放送
出演:杉咲花
成田凌、岡山天音、水沢林太郎、野内まる、志田彩良
倉悠貴、栁俊太郎、細田佳央太
内堀太郎、林裕太、河井青葉、芹澤興人
脚本:今泉力哉
監督:今泉力哉、山下敦弘、山田卓司
音楽:ゲイリー芦屋
主題歌:Homecomings 「knit」(IRORI Records / PONY CANYON)
プロデューサー:大倉寛子、藤森真実、角田道明、山内遊
チーフプロデューサー:道坂忠久
制作協力:AX-ON、Lat-Lon
©日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/fuyunonankasa/
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