『閃光のハサウェイ』上田麗奈が実現したギギの二重性 ハサウェイの“仮面”を暴く存在か

『閃光のハサウェイ』上田麗奈とギギの二重性

 村瀬修功監督のアニメ映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』(以下、『キルケーの魔女』)が劇場公開され話題となっている。

 本作は、2020年に劇場公開されたアニメ映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』(以下、『閃光のハサウェイ』)の第2部で、地球を私物化する地球連邦政府に抵抗する反地球連邦政府組織・マフティーのリーダーとして活動するハサウェイ・ノアが主人公の物語だ。

 原作は『機動戦士ガンダム』(以下、『ファーストガンダム』)を筆頭とする『ガンダム』
シリーズの生みの親として知られるアニメ監督・富野由悠季が、1989~1990年に発表した上・中・下巻の小説で、映画も3部作となっている。

 30年以上も前に書かれた話のアニメ映画化だったが、古さは感じず、近年の世界情勢を見ていると、奇妙な説得力が生まれてしまったと感じる。

『閃光のハサウェイ キルケーの魔女』に通じる現代の国際情勢 凝縮された富野イズムを考察

『閃光のハサウェイ キルケーの魔女』は富野イズムを継承しつつ、凄惨な戦場描写や富の格差を緻密に描き、現代的なポリティカルフィクシ…

 『ファーストガンダム』以降、『ガンダム』シリーズは、子ども向けといわれていたロボットアニメの中でリアルな戦争を描き、兵器としてのモビルスーツ(巨大ロボット)や、生々しい人物描写が高く評価されてきた。『閃光のハサウェイ』はそのリアリティを極限まで追求しており、ガンダム等のモビルスーツは、巨大な鉄の塊が動いているように描かれており、ビームを発射すれば轟音が響き、高熱で容赦なく建物を溶かす。

 その写実的な描写はモビルスーツだけでなく風景、食べ物、居住施設、衣服といった細部の描写にも徹底されているため、なにげない日常描写からも目が離せない。

 人物描写にも同じことがいえる。ハサウェイたち登場人物の芝居が細かく、視線のやりとりや手の動きといった細かい仕草で各登場人物の心情を表現している。

 一方、声の芝居は抑制されたものとなっており、喜怒哀楽をはっきりと打ち出す既存のアニメに慣れていると各登場人物の心情がわかりにくいのだが、そのわかりにくさが逆に人間の奥行きに繋がっている。

 その筆頭が、ギギ・アンダルシアの声を担当する上田麗奈の演技である。

 ギギは伯爵と呼ばれる老人の愛人だったが、その直感の強さが買われて、キルケー部隊(地球連邦軍のマフティー掃討部隊)を率いるケネス・スラッグ少佐から懇意にされる。だが、彼女はハサウェイのことが気になっており、ケネスとハサウェイの間を行き来することになる。

 ギギはハードボイルド小説における男を破滅させるファムファタール(運命の女)のようで、ハサウェイは自分の正体に気付いている彼女を警戒しつつも惹かれている。

 ギギの本心はわかりにくく、ハサウェイを好きな無邪気な少女にも、破滅に導く魔性の女にも見えるのだが、その複雑な印象は上田麗奈の囁くような声で話す芝居に寄るところがとても大きい。

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 テレビドラマ『カルテット』(TBS系)などの脚本家として知られる坂元裕二は、2024年にTBSラジオで放送された『NISSAN ARIYA Presents THE BATTERY~石橋貴明 あの人と、どらいぶ。~』に出演した際に、自作に出演する機会が多い満島ひかりと松たか子の魅力を、和音のように声が「二重」になって聞こえるため、「お芝居に二重の意味が生まれるんですよね、自然と」と語っていた。

 上田の声を聞いて真っ先に連想したのは、この「二重性」だ。

 例えば「あなたのこと好きよ」という台詞を彼女が言うと、本当に好きなようにも聞こえるし、嘘をついているようにも聞こえる。

 特にギギはその傾向が強く、一見エキセントリックに見える行動は何か狙いがあって演じているようにも見えるし、何も考えず衝動だけで動いているようにも見える。つまり解釈の幅が広く、だからこそ、彼女の振る舞いから目が離せない。

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