『クスノキの番人』はなぜ東野圭吾初のアニメ化に? 獲得した“実写以上”のリアリティ

本作を面白いと思う要素の一つに、物語における善悪の境界線がはっきりしていない点がある。佐治優美の父・佐治寿明の行動が分かりやすい。亡くなった兄の曲を母に届けるという善意から生まれた行動が、結果として家族を苦しめることになっていた。しかし、本作はそれを断罪しない。それどころか、謎が解けた途端、客観的には罪とも呼べる父の行動は、さらりと流される。佐治家を不安にさせ、苦しませた事実は消えない。だが物語は、あえてその痛みから目を逸らすかのように、温かな結末で包み込んでいく。この“不自然”とも取れる解決の塩梅。人間の不器用な想いに対する曖昧で歪な優しさにこそ、東野作品らしさを感じた。

そして何より秀逸だったのが、玲斗と叔母の千舟の関係性の終着点だ。初めは血の繋がりのない「擬似親子」のように見えた2人が、クスノキの念を通じて繋がる瞬間。玲斗は叔母の記憶を通じて、知るはずのなかった母の愛を知り、叔母もまた、玲斗の姿に亡き妹の面影を見る。単なる親子愛の物語ではない。記憶と視点が交錯することで、互いが心の奥底で渇望していたモノが繋がり、そこから唯一無二の絆が生まれてくる。荘厳なクスノキの元で、記憶と想いが幻想的に溶け合うその描写は、実写では成し得なかった、アニメーションだからこその表現だといえるだろう。「新しい愛の形」がそこにはあった。
113分という尺に凝縮された物語は見応え十分ではあった。だが正直なところ、それぞれのキャラクターが背負うドラマの重量感ゆえに、「彼らの物語をもっと丁寧に観たい」という「想い」が湧いたのは確かだ。できることなら、1クールのアニメシリーズとして、彼らの物語をもう一度じっくり観てみたい。その「想い」は、次の新月の夜まで胸にそっとしまっておこうと思う。
■公開情報
『クスノキの番人』
全国公開中
出演:高橋文哉、天海祐希、齋藤飛鳥、宮世琉弥、大沢たかお、津田健次郎、杉田智和、八代拓、上田麗奈、飛田展男
原作:東野圭吾『クスノキの番人』(実業之日本社文庫刊)
監督:伊藤智彦
脚本:岸本卓
キャラクターデザイン:山口つばさ、板垣彰子
美術監督:滝口比呂志
制作:A-1 Pictures
配給:アニプレックス
©東野圭吾/アニメ「クスノキの番人」製作委員会
公式サイト:kusunoki-movie.com
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