立川シネマシティ・遠山武志の“娯楽の設計”第53回
立川シネマシティ企画担当が振り返る2025年の映画館 映画界全体の構造に大きな変化が

東京は立川にある独立系シネコン、【極上音響上映】【極上爆音上映】で知られるシネマシティの企画担当遠山がシネコンの仕事を紹介したり、映画館の未来を提案するこのコラム、第53回は“2025年の映画館の状況振り返り”をしてみようかと。
2025年は映画が世の話題に多く上がる年でした。『劇場版 鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来』の前作に続く超特大ヒット、『国宝』の実写映画の興収記録の塗り替えが、同じタイミングでニュースになったのも相乗効果がありました。上映は今もなお続いており、さらに『鬼滅』は日本のみならず世界中で大ヒット、『国宝』は第98回アカデミー賞の国際長編映画賞とメイクアップ&ヘアスタイリング賞においてショートリスト(ノミネートの一段階前)入りしたというニュースも飛び込んできて、まだまだ話題は続いています。

2024年は前年の興収から7%ほど落とす、やや厳しい年でした。大きな話題になる作品が少なかったことと、2023年秋頃に多くの映画館が入場料金の値上げを行い、一般料金がついに2,000円の大台に乗ったことが要因のひとつではなかったか、と考えています。値上げのショックが落ち着いたところで、2025年は大ヒットを生み出す素地が整ったタイミングだったのでしょう。
景気のいい話題には、必ずコインの裏表のように悪い話もついて回るわけですが、大ヒット作品では毎度のことながら「鑑賞マナー問題」がまた大きく取り上げられることになりました。
400億円に到達せんとするほどのヒットともなると、普段はまったく映画館に行くことのない方も殺到しているわけで、いつも通りにはいきません。上映中にしゃべる、スマホをいじる、飲食物を持ち込む、果てにはスクリーンを写真に撮るなど、様々な惨状がSNSなどで報告されました。
実はこれらのことは、とりわけ若年層向けの作品では普段から時折発生していることでもあります。学園系ホラー映画とか、アイドル出演恋愛ものとかですね。ただ、これらはお客様同士が同世代だったり、映画館慣れしていなかったりで、大きな問題になりにくいわけです。国民的ヒット作品ともなれば、映画好きの方も多数いらっしゃるわけで、普段はあまりない邂逅が起こり、ビックリしてしまうという構造です。
話は変わり、今年いよいよ定番化してきたと感じるのは、リバイバル上映です。いわゆる過去の名作の4Kリマスター版の上映というのはコロナ禍以降、激増していますが、それだけではなく『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』や『THE FIRST SLAM DUNK』、『機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning』のように直近でヒットした作品をもう一度全国規模で再上映するというものです。これも基本的にはアニメ作品です。入場者特典などで付加価値をつけたときの効果が大きいので成立するわけです。
もうひとつ、これもアニメですが、テレビ/配信作品の第1話を先行上映するというものですね。かなり前から映画館でテレビ/配信作品の先行上映や最終話上映というのはありましたが、イベント的な興行がほとんどでした。しかしテレビ/配信版のあるシーズンの最終話と次のシーズンの第1話を組み合わせて上映した『「鬼滅の刃」上弦集結、そして刀鍛冶の里へ』の40億円超えの大ヒットを受けて、他作品も続いてきた状況です。これは新たに作品を作るわけではないので製作側はコストがそれほど掛からず、またファンの視点からは、ハイクオリティな作品はむしろ家やスマホで観るのはもったいない、という気持ちに応えるものでもあります。

映画の世界では、映画館での上映を「一次」、それ以外のソフト化やテレビ/配信などでの利用を「二次利用」と呼称してきましたが、これは逆転現象が起こっていて、映画館上映のほうが「二次利用」となっているわけです。
現状はまだアニメ作品に限られていますが、これ、映画館の未来を予見させなくもないのが怖ろしい……。
ちょっとまた違うスタイルではありますが、2026年2月20日公開の木村拓哉主演『教場 Requiem』は2部作で、1月1日からNetflixで前編である『教場 Reunion』を配信した作品を受けての後編の位置づけ。テレビドラマ放送後の映画化は数あれど、ある一社の配信サイト限定の連携、かつこれほど大規模なものは初のことで、これもまた映画館の未来を占う興行になりそうです。




















