坂本悠花里監督、初の長編『白の花実』に手応え 「観たことがないものを作りたいと思った」

坂本悠花里監督、『白の花実』に手応え

 映画『白の花実』の公開直前イベントが12月10日に東京・ブロードメディア・スタジオ試写室にて行われ、美絽、池端杏慈、蒼戸虹子、坂本悠花里監督が登壇した。

(左から)蒼戸虹子、美絽、池端杏慈、坂本悠花里

 本作は、『21世紀の女の子』の一篇『reborn』を手がけ、中編『レイのために』や短編『木が呼んでいる』などで国内の数々の映画祭で受賞してきた坂本の初長編監督作。周囲に馴染めず転校を繰り返してきた主人公・杏菜が、転校先の全寮制女子校で出会った、美しく完璧なルームメイト・莉花の突然の死をきっかけに、残された“日記”と、莉花の“魂”に静かに侵食され、心を揺るがせていく姿を描いたファンタジー。スペインで行われた第73回サン・セバスティアン国際映画祭のNew Directors部門ではクロージング作品として上映され、第38回東京国際映画祭では日本初上映を果たした。

 まず、本作の着想について坂本監督は「現実に現実じゃないものを描くのが好きで、『吸血鬼 ノスフェラトゥ』のような、現実に異物が入り込んでくる世界観を探していました。この映画でもそういう存在を描けないかと考えていて、世界観を探っていきました」と明かした。また、日本映画では珍しい、キリスト教の女子寄宿学校という舞台設定を選んだ理由については、「観たことがないものを作りたいと思ったときに、日本映画でキリスト教の女子校を舞台にしたものはあまり観ないなと。普通の教室を描くこともできるけれど、それではいつも観たことあるものになってしまう。特殊な設定にすることで、映画というフィクションの大きさをより活かせるのではと考えました」と語った。

美絽

 本作は寄宿学校を舞台にしているため、キャストも泊まり込みで撮影を行ったという。池端は「美絽と虹子の表情が本当に好きで。カメラが回っていないときと、役になって話すときの表情が全く違うんです。特に美絽はアンナになった瞬間に目がスッと変わる瞬間があってカッコいい。虹子は声がすごく素敵で、アンナに最初声をかける1言目を聞いてドキッとしました」と振り返る。美絽は初めての映画出演について、「全てが学びでした。大変だったのは天気。雨が多くて、湖のシーンは大変でした」とコメント。同じく映画初出演となる蒼戸は、坂本監督との対話が大きな支えになったという。「全てに不安と緊張と驚きがありましたが、監督が役や作品について話す時間をたくさん作ってくれました。そこで役との向き合い方を学べたと思います」と語った。

池端杏慈

 「この3人だから作れたキャラクターになっていると感じています」と語る坂本監督。イベントでは、印象に残った監督のディレクションについて語り合う場面も。池端は「本読みの時、役が分からなくなってしまう瞬間があって。監督から『1回、棒読みで読んでみよう』と言われたところから始まりました」、美絽は「『呼吸を大事にしてほしい』と言われたことが印象に残っています」、蒼戸は「監督が『なぜそのセリフを言うのか、今どういう気持ちなのか』を都度聞いてくれました。監督に言われたことを考えるというより、最初から役と向き合えた感覚があります」と監督との信頼関係をうかがわせた。

蒼戸虹子

 作中で重要な役割を果たす伝統ダンスについても話題が及んだ。撮影の半年前から坂本監督を含む4人で練習を重ねたといい、坂本監督は「テクニックの上達より、自分の体と気持ちをつなげる作業だった」と振り返る。美絽は「どの筋肉を使っているかも分からないところからのスタートで苦労したが、今思えばすべてが楽しい瞬間でした」と語り、池端は呼吸や目線など役の個性が出る踊り方を意識していたと明かす。蒼戸は「プリンの上を歩くイメージ」「マグマの上を歩くイメージ」など身体表現のレッスンが多く、「4人で過ごす穏やかな時間がとても好きだった」と当時を振り返った。

坂本悠花里

 イベントの終盤、坂本監督はあらためてタイトルに込めた思いを語った。「白にはイノセントな雰囲気と、どこか怖いイメージがあり、『白の花実』はその両方から生まれたタイトルです。最近、少女の内側と外側を象徴しているタイトルだとおっしゃっている方を見て、なるほどと思いました。リンゴを切ったとき、内側が白くて外側が赤いのを見て、これも“白い果実”だなと思って。皆さんも、映画を観た後に“白の果実とは何か”を考えてもらえたら嬉しいです」と述べ、観客それぞれの解釈に委ねる余白が込められていることを明かす。さらに、「映画館という現実と異なる場所で感じたものが、映画館を出た後、皆さんの現実とどこかリンクしていけばいいなと思っています」と想いを伝え、イベントを締めくくった。

■公開情報
『白の花実』
12月26日(金)より、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
出演:美絽、池端杏慈、蒼戸虹子、河井青葉、岩瀬亮、山村崇子、永野宗典、田中佐季、伊藤歩、吉原光夫 、門脇麦
監督・脚本・編集:坂本悠花里
プロデューサー:山本晃久
製作・配給:ビターズ・エンド
制作プロダクション:キアロスクロ
英題: White Flowers and Fruits
2025年/日本/カラー/DCP/5.1ch/ビスタ/110分
©2025 BITTERS END/CHIAROSCURO
公式サイト:https://www.bitters.co.jp/kajitsu/
公式X(旧Twitter):https://x.com/shirono_kajitsu

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