『踊る大捜査線』から『国宝』へ 実写邦画のトレンドは20年でどう変化したのか?

『踊る2』『国宝』 実写トレンド20年の変化

 11月25日に『国宝』の興行収入が173.7億円を超えて、実写邦画作品の歴代興行収入第1位となった。これは2003年に興行収入173.5億円を記録した『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(以下、『踊る2』)以来22年ぶりの更新となる。

 6月6日に劇場公開された『国宝』は吉田修一の同名小説(朝日新聞出版)を映画化した歌舞伎の世界を描いた物語で、任侠の生まれの喜久雄(吉沢亮)と歌舞伎の名門の家に生まれた俊介(横浜流星)が、歌舞伎の世界で生きる苦悩を描いている。

 上映時間174分ゆえに、当初はとっつきにくい映画に思われた『国宝』だが、上映されるとすぐに話題となり、大ヒットとなった。

『国宝』©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会

 監督の李相日は、これまで『悪人』と『怒り』で吉田修一の小説を映画化し、高い評価を獲得して国内外の賞を総なめした。だが、興収は『悪人』は19.8億円、『怒り』が16.1億円。邦画としてはヒット作だが『国宝』ほどではなかった。

 ではこれまでと何が違ったのか? 一つは脚本を奥寺佐渡子が担当していることだ。

 『週刊文春CINEMA! 2025年秋号』(文藝春秋)に掲載されたインタビュー(※)によると、奥寺は上下巻で800ページを超える長編小説を映像化する際に群像劇だった原作を、喜久雄と俊介の関係と芸事に焦点を当てることでテーマを絞りこんだという。

 李相日監督の演出はとてもレベルが高く、吉沢亮、横浜流星を筆頭とする役者の演技も素晴らしかったが、やはり本作の成功は、奥寺による巧みな脚色と「伝統芸能における血筋と才能をめぐる葛藤」というテーマを抽出できたことが、とても大きかったのではないかと思う。

 奥寺は、相米慎二監督の1993年の映画『お引越し』で脚本家デビュー。その後は、映画だけでなくアニメやテレビドラマの脚本も執筆しており、アニメ映画では『時をかける少女』等の細田守監督作品で広く知られている。また、テレビドラマでは『Nのために』(TBS系)や『最愛』(TBS系)といったミステリーテイストのヒューマンドラマの脚本で高く評価されている。

『国宝』©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会

 近年は坂元裕二脚本の『花束みたいな恋をした』や野木亜紀子脚本の『ラストマイル』といった脚本家の名前が強く打ち出された邦画がヒットし話題となっている。

 坂元も野木もテレビドラマで人気を博している脚本家だ。テレビドラマでは、脚本家の作家性が監督(演出)よりも重視される傾向が強かったが、2人の映画での活躍や奥寺の評価の高まりを見ていると、近年の邦画もテレビドラマのように脚本家が占める役割が大きくなっているのかもしれない。

 そこで比較すると面白いのが『踊る2』だ。本作は1997年に放送された刑事ドラマ『踊る大捜査線』(フジテレビ系、以下『踊る』)の2作目の映画。

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