苦難続きのハリウッドに再び激震 Netflixによるワーナー買収で映画文化はさらに衰退へ?

Netflixによるワーナー買収を徹底解説

 ストリーミングサービスの最大手Netflixが、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーのスタジオ&ストリーミング部門、すなわちワーナー・ブラザースとHBO Maxを買収する。2025年12月5日(米国時間)に両社が発表した。

 奇しくもこの週末は、北米映画市場の年間興行収入が80億ドルの大台を突破したタイミング。新型コロナウイルス禍からなんとか業界が立ち直り、2023年の全米脚本家組合&全米映画俳優組合のWストライキを乗り越え、2025年1月にはロサンゼルスで大規模な山火事があった――苦難続きのハリウッドに、再びの激震が走った。

 Netflixは、ワーナーを1株あたり27.75ドル、企業価値にして約827億ドル(約12兆8000億円)で買収し、取引は2026年第3四半期(7~9月)に完了する見込み。アメリカの規制当局が買収を阻止した場合、Netflixは違約金58億ドルを支払うという。

 今回の買収劇で、Netflixは『ハリー・ポッター』『ロード・オブ・ザ・リング』『ゲーム・オブ・スローンズ』シリーズやDCコミックス作品などの巨大フランチャイズを多数獲得するほか、長年にわたる映画・テレビ作品のライブラリをまるごと手にする。ワーナーのスタジオ機能を活かし、オリジナル作品への投資や製作、雇用創出を拡大する構えだ。

 ワーナー・ブラザース・ディスカバリーのデヴィッド・ザスラフCEOは、今回の売却を「業界の世代交代を反映した」ものだと説明。すでにネットワーク部門は新企業として分割・独立することが決定しており、スタジオ&ストリーミング部門がNetflix傘下となることは「最も強固かつ長期的な基盤」になると判断したと述べた。

 北米映画市場においては、すでにAmazonがMGM(メトロ・ゴールドウィン・メイヤー)を、ウォルト・ディズニー・カンパニーが20世紀フォックスを買収した。ところが、業界におけるNetflixへの反発の声は、これまでの買収の事例とは比較にならないほど大きい。

 理由はきわめて明快で、Netflixの共同CEOであるテッド・サランドスが、劇場での映画体験は「時代遅れ」であると公言して憚らない人物であること。実際に、大手スタジオ企業とのパートナーシップで大規模な劇場公開に取り組んできたAmazonやAppleに比べると、Netflixオリジナル映画の公開規模は明らかに小さい。

 買収発表の声明のなかで、Netflixは「ワーナー・ブラザースの事業を維持し、映画の劇場公開を含む強みをより強化していく」と記した。ところがサランドスは、アナリストとの会談のなかで「ワーナーから劇場公開が予定されている作品は、引き続きワーナーから劇場公開されることになります。Netflix映画も従来と同じく、一部の作品は映画館で短期上映する」としか語らず、具体的な方針や計画を明かさなかった。

 それどころか、サランドスは「時の流れとともに、(リリースの)手段はより消費者フレンドリーに進化し、世界中の観客により早く届けられるものになる」と発言し、配信重視の見方が変わらないことを示唆したのである。「最大の目標は会員の皆様に新作映画をお届けすることで、それこそが求められているから」と。

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