『ばけばけ』は朝ドラでどこまで踏み込む? 笑いだけにはできない“フトン事件”

『ばけばけ』奉公初日に起きたフトン事件

 『ばけばけ』(NHK総合)第32話では、トキ(髙石あかり)の女中奉公が描かれた。

 ヘブン(トミー・バストウ)の女中になることを承諾したトキ。ふみ(池脇千鶴)や松野家の人々には旅館の女中と言い、表向きは快活さを装っていたものの、内心は不安でいっぱいだったことが見て取れる。

 花田旅館の平太(生瀬勝久)とツル(池谷のぶえ)は、トキを心配して、ウメ(野内まる)を付き添わせることを提案する。気難しいヘブンを案じて、「できるだけおウメに一緒におってもらって」と二人きりにならないようにとの配慮だった。異国の男性と一つ屋根の下で暮らす不安は周囲も察するほどだった。

 人の優しさに触れたトキの奉公初日。深夜まで執筆作業にいそしんでいたヘブンは、起きたときは不機嫌そうだったのが、朝食ではウメに冗談を言う饒舌ぶりで、トキの緊張もほぐれたと思いきや、事件は起こった。

 “フトン事件”は、ウメが茶を取りに行っている間、二人きりになったトキにヘブンが「フトン」と連呼したことで発生。フトンつまり、床の相手をすることを促しているとトキは受け取ったのだろう。恐れていた事態がいきなりである。トキはどうしたらいいかわからず固まってしまうが、「布団を干して」という意味であることがわかり、その場は事なきを得る。

 年長男性に対する恐怖心と、言葉の通じない相手に対するおそれ。異なる種類の恐怖が押し寄せ、それをたった一人で受け止めなくてはならない。住み込みの女中を衣食住が保障された安定した職と考えていた私たちは、トキの目を介して現実に直面する。それは同時に、異人の妾である“ラシャメン”に対して、人々が危惧するイメージの深刻さを物語っていた。

 しかし、本当の試練はこれからだった。即効性の恐怖に対して、遅効性のそれは来るとわかってなかなか来ないだけに、恐ろしさはよりいっそう高まる。夜になり、ウメが帰ると、トキはヘブンと二人きりになってしまう。

 宵っ張りのヘブンは、書きものをしている間は自分に手を出さない。トキはしじみのように息をひそめ、気づかれないように自らの存在を消す様子は『怪談』に登場する耳なし芳一のようである。「ペンの音が聞こえているうちは大丈夫。この音よ、永遠に響け」という心の声が生々しい。

 その思いはトキの願望で終わった。襖が開く音と同時に「シジミサン」と声をかけられ、震える声で「はい」と答えるトキ。覚悟していたことがついに訪れるのか。オープニング映像でトキとヘブンの仲睦まじい姿を見ているので、悪いことにならないと知っているが、公共放送であり教育的な配慮も必要である。笑顔になれる展開を祈るばかりだ。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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