『今際の国のアリス』S3に欲しかった“没入感” “恐怖”と“感情”の衝突がS4成功の鍵に

Netflixの世界配信ランキング(非英語作品)2025年9月22日~28日週で、『今際の国のアリス』シーズン3が初登場2位を記録した。同時にシーズン1も7位に再浮上し、シリーズ全体の注目が再燃。極限のデスゲームをスタイリッシュな映像とバイオレンス描写で包む独特の世界観、そして若手からベテランまでが織りなす群像劇が、日本発の実写としては異例のグローバルヒットを生み出した。
しかし華やかな成功の裏で、「どこか物足りない」と感じたファンも少なくない。熱が冷めたわけではなく、むしろシーズン1・2の完成度が高すぎたゆえの反動だろう。なぜ“薄味”に映ったのか──その理由を「キャラクター」「げぇむ」「脚本」の3つの視点から考えたい。

まず、最大の変化はキャラクター構成だ。山﨑賢人&土屋太鳳のW主演に加え、賀来賢人、池内博之、玉城ティナらの参加は話題を呼び、予告映像は海外のNetflix公式チャンネルで半日で100万再生を突破し、世界的な注目を証明した。しかし、ファンが最も気にしたのは“チシヤ不在”である。村上虹郎演じる金髪のクールキャラは、シリーズを通して知的バランスを担う存在だった。一部報道によると体調を理由に撮影を辞退し、脚本も一部修正されたという。冷静さと狂気の間で揺れるチシヤがいないことで、アリス(山﨑賢人)との“生き延び方”の対比が消え、心理的な深みがやや失われた印象だ。
アリスとウサギ(土屋太鳳)の関係性にも変化があった。これまでの2人は、生死の狭間で支え合う“運命共同体”だった。しかし今作では恋愛要素が強まり、ウサギの主体性が薄れ、アリスの感情を映す“鏡”に留まってしまった。賀来や玉城ら新キャラクターはそれぞれ魅力を放ったが、信念や行動の根拠が浅く、シリーズを支えてきた“生きる意味を問うドラマ性”を十分に支えきれなかった。

次に、“げぇむ”のパンチ不足を指摘したい。シリーズの魅力は、理不尽なルールの中で人間の本性を浮かび上がらせる構造にある。特に印象的だったのが、シーズン1の「ハートの7」だ。参加者は“おおかみ”と“ひつじ”に分かれ、“おおかみ”が“ひつじ”を見つめると立場が入れ替わる。しかも、制限時間はわずか10分。“げぇむ”はトランプの数字が大きいほど過酷さが増すことが作中で説明されていたが、中間ランクの“7”ながら、最後に残った者だけが生還できるという理不尽さ。ここでアリスの親友カルベ(町田啓太)とチョータ(森永悠希)が命を落とす衝撃展開は、序盤にしてシリーズ屈指の名場面となった。この「ハートの7」については、今もSNSで「全員生還の方法はあったのか」との考察合戦が飛び交っているほどだ。

しかしシーズン3では、こうした“巻き込まれる感覚”が薄れた。原因の一つはルール説明が多く、想像の余地がなくなったこと。また、「ばばぬき」「ゾンビ狩り」「暴走でんしゃ」などは勝敗条件が曖昧で、ちょっと考えれば簡単に攻略できそうなうえ、展開に後付け感が漂う。命の軽さと知恵の重さが拮抗していた初期のスリルが、今回は設定に頼る“イベント”に変わってしまったのだ。

最後に脚本面。序盤は説明的でテンポが鈍り、クライマックスでは派手な演出が感情の積み重ねを薄めてしまった。妊娠中のウサギが自らの意思で再び死の世界へ赴く展開は、これまで命の重さを描いてきたシリーズとして違和感が残る。最終話で“現実と意識の境界”を曖昧にした結末も、“夢オチ”的に感じられてしまった。渡辺謙演じるジョーカーの登場は興味深いが、全体とのつながりが弱く、示唆が十分に活かされていない。原作完結後のオリジナル展開が増えたことで、脚本と演出の方向性にズレが生じた印象だ。

総じて、シーズン3は映像と演出の完成度こそ高いものの、物語への没入感が薄れ、「視聴者を今際の国に引きずり込む力」が弱まってしまった。ただし、映像表現の挑戦やスケールアップは確かな前進でもある。ただ、視聴者が本当に求めているのは、派手な演出よりも“恐怖”と“感情”がぶつかる瞬間だったはず。作品が再び輝くためには、原点に立ち返る必要があるだろう。

「自分は何のために生きているのか?」――このシンプルな問いこそ、『今際の国のアリス』の核であり、シリーズを貫いてきた最大のテーマだった。もし“シーズン4”が実現するなら、再び世界を“今際の国”へと引きずり込むような、圧倒的な物語を期待したい。
■配信情報
Netflixシリーズ『今際の国のアリス』
独占配信中
出演:山﨑賢人、土屋太鳳、磯村勇斗、三吉彩花、毎熊克哉、大倉孝二、須藤理彩、池内博之、玉城ティナ、醍醐虎汰朗、玄理、吉柳咲良、三河悠冴、岩永丞威、池田朱那、賀来賢人
原作:麻生羽呂『今際の国のアリス』(小学館『少年サンデーコミックス』刊)
監督:佐藤信介
脚本:倉光泰子、佐藤信介
音楽:やまだ豊
撮影監督:河津太郎
美術監督:斎藤岩男、大西英文
アクション監督:下村勇二
VFXスーパーバイザー:土井淳
エグゼクティブ・プロデューサー:坂本和隆
プロデューサー:森井輝、高瀬大樹
制作協力:株式会社THE SEVEN
企画・制作:株式会社ロボット
製作:Netflix
©︎麻生羽呂・小学館/ROBOT






















