『今際の国のアリス』が提示する現在の社会に必要なこと シーズン3を哲学的視点で読み解く

日本発のドラマ作品として異例といえる大規模撮影を敢行し、豪華なキャスト陣も話題となったNetflixシリーズ、『今際の国のアリス』。同名の人気漫画作品を原作に、東京そっくりの都市でデスゲームを繰り返す内容が、海外でも大きな反響を呼ぶこととなった。その物語は、主人公たちが迷い込んだ“今際の国”の衝撃的な事実が明かされ、シーズン2にて壮大な結末を迎えた。
そんな本シリーズのシーズン3が配信リリースされた。結末を迎えたはずの物語がまた動き出し、“アリス”こと、主人公の有栖良平(山﨑賢人)は、再び死のゲームを繰り返す世界へと逆戻りすることになる。ここでは、そんな本シリーズのシーズン3の内容が何を描いていたか、そしてそれは現在のわれわれにとってどんな意味を持ち得るのかを考えてみたい。
※本記事では、ドラマシリーズ『今際の国のアリス』の展開を明かしている箇所があります
新たな物語とはいえ、シーズン1、シーズン2ともに8話構成、つまり16話のボリュームがあったことを考えると、今回のシーズン3が6話構成で、新たな展開が始まり完結するところまで描かれるというのは、ビデオゲームでいえば実質的に「エクストラステージ」とでもいうような、追加のエピソードという意味合いが強いように感じられる。であれば、必然的にテーマも、描き残したものを提示していると考えられる。
物語の始まりでは、“今際の国”から生きて帰還し、“ウサギ”こと宇佐木柚葉(土屋太鳳)とともに幸せな日々をおくるアリスの姿が描かれる。異世界にてデスゲームを繰り返した記憶を失った2人の前に現れたのは、大学の助教リュウジ(賀来賢人)。彼はある事情から死の世界の存在を信じるようになり、死の際を体験した人々に興味を持っていたのだ。
リュウジは、“今際の国”の国民となったバンダ(磯村勇斗)らの求めに応じ、ウサギを再びあの異世界へと引きずり込む。現実の世界で意識を失っているウサギの精神をまた現世に引き戻すため、アリスはアン(三吉彩花)の協力のもと、一人でウサギの救出へと向かったのだった。
ウサギを追ってアリスが不思議な世界へと迷い込んでいく……。それは、ルイス・キャロルの小説『不思議の国のアリス』の構図の再現となっているが、どちらかといえばギリシア神話に登場するオルフェウスの物語の方を想起させられる。これは、死んだ妻エウリュディケーを連れ戻そうと、冥界を辿っていくという筋で、多くの文学作品や、ジャン・コクトーの『詩人の血』(1932年)、『黒いオルフェ』(1959年)など、映像作品の題材にもなってきた。そう考えると、シーズン3は全体的にロマンティックな雰囲気を纏っている。
オルフェウスのように、勇敢にも再び“今際の国”に足を踏み入れたアリス。彼を待っていたのは、強制参加のゲーム「おみくじ」だった。原作で映像化されていなかったデスゲームだ。ヤクザのカズヤ(池内博之)、薬物依存症のテツ(大倉孝二)、専業主婦のサチコ(須藤理彩)、引きこもりの青年・ノブ(醍醐虎汰朗)らと、アリスはこのゲームに参加する。この描き残していた大スケールの表現を、今回映像化できたという点では、とくに原作のファンは嬉しい部分だ。
提灯に囲まれた神社の境内で、参加者たちはおみくじを引いていく。そこには数にまつわるクイズが記されていて、数字で答えを言わなければならない。もし正解と答えに誤差があれば、その誤差の数だけ火矢が飛んでくるというルールだ。この超現実的な世界では、物理的な制限が存在しない。現実では実現不可能なおびただしい数の火矢を降らせることが可能なのである。
他にも「ゾンビ狩り」、「暴走でんしゃ」、「かんけり」など、ゲームは続いていく。今回のゲームマスターは、シーズン2にて永住権を得たプレイヤーたち。その内容は残酷で、人間の醜さが表れてしまう局面もある。参加したプレイヤーは次々と死亡し、生存した者たちも精神をすり減らす。そんな過酷な環境のなか、アリスは生きてウサギと対面。ともに最後のゲームへと向かってゆく。
悲惨なだけに見える各ゲームだが、そこにはポジティブな共通点もあった。それは、プレイヤーたちが冷静に状況を判断し、協力することができれば、犠牲が最少で済み、より多くの人々が生き残ることができるということだ。
























