『ぼくたちん家』は“かすがい”のような物語に 及川光博&手越祐也が自身の“キャラ”を封印

『ぼくたちん家』は“かすがい”のような物語

 この世界には確かな幸せを手に入れたいと願いつつも、ささやかな夢の実現を静かに諦めざるをえない人々がいる。10月12日にスタートしたドラマ『ぼくたちん家』(日本テレビ系)は、そんな社会の片隅でひっそりと生きている人々を繋ぎ止める“かすがい”のような物語になる予感がした。

 本作のプロデューサーを務めるのは、これまで『すいか』(2003年/日本テレビ系)や『野ブタ。をプロデュース』(2005年/日本テレビ系)など、どの時代にも共通する“しがらみ”や“生きづらさ”に絡まる人々の物語を、ちょっとしたユーモアを交えて世の中に届けてきた河野英裕。さらに、オリジナル脚本を手がける松本優紀は、2023年の“日テレシナリオライターズコンテスト”で審査員特別賞を受賞し、なんと本作が初の連ドラ担当作となる新進気鋭の脚本家だ。百戦錬磨のベテランと期待の若手が集結し、報道局で性的マイノリティに関する取材や情報発信を行う白川大介を“インクルーシブプロデューサー”として迎える制作陣は、新たな時代を切り拓いていく気概を感じさせる陣容となっている。

 そんなドラマの主人公に抜擢されたのが、21年ぶりに連続ドラマで主演を務める及川光博。いかなるドラマにおいても、異彩を放つ役柄をスマートに演じている姿を目の当たりにしているので、そもそもGP帯での初主演というのが意外だった。共演には、これまた7年ぶりのドラマ出演となった手越祐也。恐らく誰も想像がつかなかったであろうキャスティングなのに、なぜだかすこぶるフィット感があって驚いている。

 飾らない素顔と明るいキャラクターでお茶の間の人気を博している彼らが、ふだん隠しても隠しきれないオーラを消して演じるのは、偏見や差別が横行する社会でひっそりと生きているゲイ。ただ、恋愛対象が男性である2人の性格や考え方は、ずいぶんと異なるようだった。

 及川が演じる波多野玄一は今年、50歳になった動物飼育員。不器用ながら情に厚い玄一の優しい心根は、彼の住んでいる部屋にも表れている。巨大なファミリーサイズのアイスを1人で頬張りながら玄一が話しかける相手は、2匹の犬と1匹の亀。いずれも動物園に捨てられていたのを、玄一が引き取ったのだ。持参した“かすがい”で壊れた公園のベンチまで修理する彼は、社会が生んだ歪みは自身が引き受ければいいと思ってしまう人物なのだろう。しかし、そんな彼もパートナー相談所の百瀬(渋谷凪咲)の「恋と革命です。『人間は、恋と革命のために生まれてきたのだ』。太宰の言葉です」という言葉に焚きつけられてからは、心に秘めていた恋愛感情を口にするようになる。

 恋と革命にメラメラと情熱を燃やす玄一を冷めた目で見つめるのは、38歳の中学教師・作田索(手越祐也)。同じゲイである恋人の吉田(井之脇海)と同棲していたものの、提出することのできない婚姻届と「わかりやすいゴールのない人生」に絶望して、住んでいた家を出ていってしまう。手越はいつもの屈託のない笑顔を封印して、影のある寂しさをちらつかせながら、まるで野良猫のように帰る場所もなく車中泊を続ける作田をクールに演じている。バラエティ番組で見せる表情とはまるっきり異なるが、不思議と役に馴染んでいる印象だ。

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