『フェイクマミー』は“週末疲れ”に刺さる現代ドラマ 波瑠×川栄李奈が“正反対”の女性像に

『フェイクマミー』正反対の波瑠×川栄李奈

「何があっても自分の価値を下げちゃ絶対ダメ。あなたはすごい!」

 うっ、心を射抜かれた! 金曜の疲れきった心と体に力強くも優しいメッセージを携えて、『フェイクマミー』(TBS系)が幕を開けた。転職活動に苦戦する元バリキャリの花村薫(波瑠)と、娘をひとりで育てる元ヤン社長の日高茉海恵(川栄李奈)。2人が結んだ“ニセママ契約“は、完璧を求める社会への切実なレジスタンスではないだろうか。

 大手商社を訳あって退職した薫は転職活動に励むが、結果は惨敗。そんな中、面接で不採用になったベンチャー企業「RAINBOWLAB」の社長・茉海恵から直々に、非公表の娘・ひろは(池村碧彩)の家庭教師を頼まれる。さらに、いろはが希望する名門私立校の入試で、偽の母親=フェイクマミーとして面接を受けてほしいと持ちかけられるのだ。もしなりすましがバレたら刑罰に問われる可能性もあるため、薫は断るが……。

 まるで正反対の生き方を歩んできた2人だが、どちらも社会に対して釈然としない気持ちを抱いている。そこから浮かび上がってくるのは、現代女性が置かれた厳しい現実だ。薫は東大卒業後、大手商社に入社。優秀社員賞にも選ばれるほどの成果を上げ、29歳でマンション購入と、欲しいものは自分で手に入れてきた。

 それなのに母親からは独身で子供がいないというだけで、さも劣っているかのような扱いを受け、会社では子育てで時短勤務の同僚の補佐を命じられる。共働きが当たり前となった現代において、子育てをしながらも役職に就き、活躍できる会社は貴重だ。だが、仕事にフルコミットしてきた人にとっては理不尽に感じられる部分もあるのではないだろうか。「誰かを押し上げるために別の誰かを犠牲にするような多様性」を受け入れることができなかった薫は辞表を提出した。

 そんな薫に冒頭の台詞を投げかけたのが、茉海恵だった。勉強が苦手で高校を中退したが、持ち前のコミュ力と発想力で社長にまでのし上がった茉海恵。しかし、元ヤンキーという経歴で、色眼鏡で見られることもあるのだろう。娘を非公表にしているのも納得がいく。

 一方で、忙しい中でもいろはにできる限りの愛情を注ぎ、財力があるのだから、家事育児をアウトソーシングすることもできるはずなのに、ちゃんと料理を作り置きしている茉海恵には頭が上がらない。それを本人は鼻にかけておらず、薫の賞賛の言葉に謙遜し、すかさず褒め返す。これまでも底抜けの明るさから芯の強さが滲む演技を見せてきた川栄。そんな彼女が発する言葉は、どうしてこうも胸に刺さるのだろう。

 独身でバリキャリの女性と、仕事と子育てを両立するワーママ。対立構造に落とし込まれることも多いが、自分とは正反対の生き方を選んだ相手を尊敬し、互いに肯定し合う2人の関係に希望を見出さずにはいられなかった。

 茉海恵は親子共々に薫のサポートを受け、受験に向けて対策を進める。そんな2人が最終的にニセママ契約を結ぶきっかけとなったのは、茉海恵の暴言動画流出。正当性はあるが、言動だけに着目する人々によって炎上させられてしまう。いろははギフテッドとも呼ばれる特別な才能を持ち、合格も射程圏内だった。だが、有名私立校の受験では親の経歴や素行も評価に加味される。お受験サイトには、母親が専業主婦でないと合格できないという旨の口コミも散見された。生まれも育ちもよく、専業主婦で私立に通わせられるほどの稼ぎがある夫を持つ母親の子供しか受け入れられないということだろうか。

 諦めかけた茉海恵に自らニセママ契約を持ちかけた薫からは、そんなムリゲーな世の中に対する静かな怒りをひしひしと感じた。真摯に生きる親子の夢を完璧を求める現代社会の歪みによって途絶えさせたくなかったのだろう。それは、独身というだけで社会からNOを突き止められた薫自身の戦いでもある。優しさと強さが同居する波瑠を最後まで見守りたいと思った。

 本作は、次世代を担う脚本家の発掘・育成を目的としたプロジェクト「TBS NEXT WRITERS CHALLENGE」の第1回で大賞を受賞した園村三の完全オリジナル作品。プロデューサーの韓哲によれば、多くの選考員が「いま描くべき作品であり、脚本は独特でユーモアにあふれている」と評価し、満場一致で大賞に選ばれたという(※)。まさしく多くの女性が漠然とした不安と焦燥感に苛まれる現代に生まれるべくして生まれた作品。金曜の夜にそっと、私たちを肯定してくれそうだ。

参照
※ https://www.tbs.co.jp/fakemommy_tbs/about/

『フェイクマミー』の画像

金曜ドラマ『フェイクマミー』

「TBS NEXT WRITERS CHALLENGE」第1回大賞作をドラマ化。正反対の人生を歩んできた2人の女性が、子どもの未来のために“母親のなりすまし”という禁断の契約を結ぶ。

■放送情報
金曜ドラマ『フェイクマミー』
TBS系にて、毎週金曜22:00〜22:54放送
出演:波瑠、川栄李奈、向井康二(Snow Man)、中村蒼、野呂佳代、池村碧彩、橋本マナミ、中田クルミ、 津田篤宏(ダイアン)、筒井真理子、利重剛、若林時英、宮尾俊太郎、朝井大智、筧美和子、浅川梨奈、笠松将、田中みな実
脚本:園村三
演出:ジョンウンヒ、嶋田広野、宮﨑萌加
主題歌:ちゃんみな「i love you」(NO LABEL MUSIC / Sony Music Labels Inc.)
プロデュース:韓哲、中西真央、唯野友歩
©︎TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/fakemommy_tbs/
公式X(旧Twitter):@fake_mommy_tbs
公式Instagram:fake_mommy_tbs
公式TikTok:@fake_mommy_tbs

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