大東駿介×飯豊まりえ、犬との芝居で変化した仕事への向き合い方 「みんなが愛を持って」

犬と人間が共に生きる姿を描くNHKドラマ10『シバのおきて~われら犬バカ編集部~』で、主人公・相楽を演じる大東駿介と、その相棒的存在となる石森玲花を演じる飯豊まりえ。撮影現場には、相楽の愛犬・福助を演じる“のこちゃん”も参加し、和やかで温かな空気が広がっていたという。本作で描かれる「犬と人が共に生きる」というテーマは、キャスト自身にとっても大きな気づきと実感をもたらしたそうだ。インタビューでは、撮影時のエピソードから役への思い、さらに雑誌編集部を舞台にした物語ならではの仕事観まで、たっぷりと語ってもらった。(編集部)【インタビューの最後には、サイン入りチェキプレゼント企画あり】
みんなが愛を持って取り組んでいる現場
――今回は“のこちゃん”にも写真撮影に参加してもらいましたが、犬がいるだけでこんなに現場の雰囲気が変わるものかと驚きました。
飯豊まりえ(以下、飯豊):撮影も本当に楽しかったです。現場も終始穏やかでしたし、「ワンちゃんも頑張ってるから、『くたびれた』なんて言っていられないな」というのもありましたね。
大東駿介(以下、大東):“犬と生きていくこと”というテーマに沿った、この作品を通して伝えたいメッセージを僕ら自身が肌で感じる現場でした。みんながひとつの思いを持っていて、穏やかで、笑顔も絶えなくて。やっぱりスケジュールが過密になるとピリピリするし、仕事ってそういうものだと思っていたけれど、犬たちに「既存のルールを一回排除しようよ」「みんな心穏やかに行こうよ」と言ってもらえている気がして。その結果、本当に豊かな現場になりましたし、僕らが実感したこのメッセージがそのまま届けばいいなと思っています。
飯豊:そうですね。ワンちゃんはピリピリした空気感を人一倍感じちゃうので、私たちが楽しくすることで、ワンちゃんたちも楽しくなるよね、と。みんなが愛を持って取り組んでいる現場でした。
――次の現場では、どこか物足りなく感じてしまいそうですね。
飯豊:どの現場でも、常にワンちゃんに出入りしてほしいくらいです。隣のスタジオで大河ドラマ(2026年放送『豊臣兄弟!』に大東駿介も前田利家役で出演)を撮っていたときに、みんな武将の格好で見に来ていましたね!
大東:来てた来てた(笑)。
飯豊:その空間だけ、時代がタイムスリップしたみたいになっていました。なので「大河にも出ちゃったらいいのに」と思っていました。日本犬だし、違和感なくないですかね?
大東:僕は(幼名が)犬千代(前田利家)の役だから、そのまま連れて行ってもいいかもしれない。一度、『シバのおきて』と大河の撮影が重なった日があったんですよ。あのときに連れて行けばよかった。横に座らせておけば、出さざるを得ないもんなぁ。

――(笑)。徳尾浩司さんが手掛ける脚本の印象はいかがですか?
大東:今回は登場人物が多いけど、キャラクターがそれぞれ際立っているんですよね。キャスティングの妙もあって、それぞれが本当に生き生きしているし、演じていて無理がない。“人が生きている感じ”がありがたかったです。同時に、犬に対しての思いやりもあるし、ただ楽しいだけじゃなく、ちゃんと犬と一緒に生きていく。その上で、伝えなきゃいけないメッセージも含まれていて、すごくバランス感覚の優れた方だなと思いました。
飯豊:たしかに、その人がもし現実世界にいたら「こういうことを言いそうだな」と、いい意味で想像がつくというか。視聴者が思うことを代弁してくれる人もいるので、台本を読むのが本当に面白かったですね。わかりやすく“ここは涙のシーンです”とかではなくて、日常会話からグッとくるものが生まれたり、胸が熱くなったり。展開もすごく自然で、演じる側もナチュラルでいられる環境だったなと思います。

――大東さん演じる主人公・相楽は、気づけば周囲から人が離れてしまった雑誌編集長ですが、台本を読んでただの嫌われ者ではないのかな、と感じました。
大東:僕も最初にお話をいただいたときには、「平成初期のちょっとパワハラ気質な上司の役です」と言われたんですが、実際に台本を読んでみると、仕事に対する熱意がすごくあって、ただ、その中で“人と仕事をする”という部分が欠落している。言葉でうまく伝えられずに熱量だけが暴走して、相手にその熱量だけが伝わってしまうような、ぶきっちょな人なのかなと感じました。

飯豊:原作のモデルになった元編集長の方ににお会いしたときにもそんな印象を受けましたが、その元編集長の隣にいるのが、石森玲花のモデルになった編集部員の方なんです。言いたいことをハッキリと言える方が傍にいたからこそ、2人の相乗効果で雑誌が作られていったんだなと思いましたね。
大東:おふたりにお会いして、編集長は彼女ににすごく救われている感じがしたんですよ。相楽でいえば、石森に救われている。不器用なだけで本当は穏やかな人なので、そこに的確にツッコんで、笑いに変えてくれる存在は大きくて。相楽は雑誌『シバONE』を作る前にパチンコ雑誌でみんなにボイコットされちゃいますけど、石森と出会い、さらには間に犬がいたことで、言葉を超えた内側の気持ちを汲み取る環境が整った。それによって、いい編集部になっていくんだろうなと思いました。

――役作りは、モデルのお二方を参考に?
大東:お会いしたのは、撮影がほぼ終わる頃だったんです。それまでは僕たちで模索しながら演じていて、答え合わせのときに「正解やったんや!」みたいな(笑)。
飯豊:寸分違わず、シンクロしていましたよね。
大東:お互いに「似てんなぁ、俺ら」って。それはしっかりとリサーチして土台を作ってくださったみなさんのおかげですけど、本当にうまくフィットしたなと思いました。
飯豊:最初に台本を読んだとき、「上司に対してこの口の利き方は大丈夫なのかな」と思って監督に相談したら、「いや、モデルの方が上司の編集長とこういう関係性だったんですよ」と言われて。それならと思って進めていったら、実際、そのまんまでした。
大東:当日お見えになった二人のやり取りで「本当に口が悪いんです。せめてハゲてりゃよかったのに!」とおっしゃってるのを聞いて、「完璧や、今のをそのままセリフに書き起こされへんかな」と。本当に絶妙でしたね。
飯豊:よくあんなにスコーンとツッコミができるなと思いますよね。
大東:そこを気持ちよくツッコんでくれるからこそ、笑いに変わる。元編集長も「ハゲてりゃよかったのに!」って言われて、ちょっとうれしそうだったしね(笑)。
飯豊:そうですね、うれしそうでした。

――では、相楽の愛犬・福助を演じる“のこちゃん”との思い出も聞かせてください。
飯豊:お馬さんがパカラッパカラッと歩くように、のこがご機嫌で歩いている姿を見て、「主役のワンちゃんって、こういう感じだよな」と思いました。オーラがあって、華もあって……。
大東:たしかに、主役の風格があったね。「いい俳優ってどういう人かな」と考えたときに、僕は“連れて行ってくれる人”だと思うんです。掛け合いをする中で導いてくれる俳優さんと出会ったときに、「素敵な俳優さんやなぁ」と感じることが多いけど、のこは連れて行ってくれるんですよ。“引き出してくれる”って言うんですかね。のこは演出通りに動いてくれる一方で、想定外のことをするときもある。仕事人でありながら、自由さも忘れないっていう。
飯豊:私も、のことお芝居するときが一番「どう来るかわからない」と思っていました。たとえば、ほかのワンちゃんは“動かずにいること”がすごく上手だったりするけど、のこには予定調和ではない“犬らしさ”がすごくあって。「次はどういう表情をするんだろう」と楽しみでもあったので、こちらも引き出してもらいました。「福ちゃんすごいね!」と、セリフを心から言える感覚でしたね。
大東:本番以外はすべてぬいぐるみでお芝居をしていましたけど、本番になるとやっぱりのこが抜群のパフォーマンスしてくれるんですよ。そうすると、現場も「僕たちが犬の足を引っ張るわけにはいかない」と引き締まるし、緊張感も生まれる。その中で演出以外の自由度を持ってきてくれる茶目っ気は、本当に魅力的でしたね。また仕事が増えるだろうなぁ。
飯豊:大河にも、最後のほうには出てるんじゃないですか?
大東:出てるかも。一応、プロデューサーに言っとこう……またこの話(笑)。
――(笑)。おふたりの空気感もとても素敵なんですが、初共演は?
飯豊:映画『岸辺露伴は動かない 懺悔室』(2025年)です。ただ、ご一緒するシーンはなかったです。

――あまりに息ぴったりなので、それ以前にも共演されているのかと思いました。今回、お芝居で対峙してみていかがでしたか?
大東:僕はめちゃくちゃ安心しましたね。すべてのことに無理がなくて、自然体で、でも解像度が高くて。「自分がどう考えているか」という意思もしっかりある、本当に頼もしい人だなと思います。僕はいい加減な人間だし、今回は特に相楽役ということで、なるべく現場でも気を使わず、自由にいようと思っていたんです。でも、そういうときに飯豊さんが横にいてくれると、僕が悪い人に見えなくていいんですよ(笑)。フォローしてくれるので、本当に救い上げてくれる感じがありますね。
飯豊:うれしいですね。でも、私も同じ印象を持っています。安心感があるし、やっぱり役者さんってどんな役を演じていても人柄はにじみ出てくると思っています。大東さんは自然体で、気さくな部分だったり、愛情深いところもあったりするから、相楽さんにもぶっきらぼうだけじゃない部分が出てくる。私は初めてお芝居する方とは緊張してしまうことがあって……。
大東:えっ!?
飯豊:いや、それが大東さんにはなかったんです。
大東:なかったのね、ビックリした(笑)。
飯豊:何をぶつけても、誇張せず、自然体でキャッチボールができる感覚がありました。あとは、大東さんの緩急があるお芝居が好きです。言葉にすると軽く感じちゃうかもしれないけど、独特の表情があるんです。切ない影のような部分が見えると、いつも「おぉ」と思います。人間味があるっていうのかな。それは私生活がちゃんとしているからこそ出てくるものだと思うし、お話をしていてもその人柄が伝わってきました。
大東:(小声で)うれしっ……すみません、褒め合いしていて(笑)。『岸辺露伴』のときには話す機会がまったくなくて、最後の最後に「近々またご一緒できたらいいですね」と言っていたら、すぐに叶いました(笑)。ご縁がある方なんだなと思って、うれしかったですね。























