板垣李光人が話題作に選ばれ続ける理由 多彩な作品で培った感受性が『ばけばけ』で光る

板垣李光人が話題作に選ばれ続ける理由

 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』に板垣李光人が出演する。その話題を聞いたときから、「やはりか」と自然に頷く気持ちになった。ここ数年、テレビドラマや映画を観れば必ずどこかに彼の姿がある。『しあわせな結婚』(テレビ朝日系)での繊細な存在感も記憶に新しいが、それ以前から『どうする家康』(NHK総合)や『陰陽師0』、『約束のネバーランド』など、大作や注目作に立て続けに出演してきた。出演作が途切れないこと自体が、いまの板垣李光人という俳優の位置を示しているのだろう。

 最初の大きな転機となったのは、やはり『カラフラブル~ジェンダーレス男子に愛されています。~』(読売テレビ・日本テレビ系)だろう。2021年に放送されたこのドラマで板垣が演じたのは、ジェンダーレス男子・相馬周。中性的な美しさと繊細な感性をあわせ持つ姿は、視聴者に強い印象を残した。ちょうど社会全体で多様な価値観が注目を集めていた時期に、彼の個性と役柄がぴたりと重なったことも大きい。結果として、板垣は「時代の空気を映す存在」として広く認知されるようになり、同世代の俳優の中でも早くから独自の立ち位置を築いた。

 しかし、ひとつのイメージにとどまることなく、板垣はすぐに『どうする家康』に出演し、歴史ドラマの重厚な世界でも存在感を放った。若手俳優にとって大河への出演は大きな登竜門といえるが、板垣の場合は美しい若手という枠を超え、役柄の重みをしっかりと受け止められる演技力を示したことにこそ意味がある。その後も『約束のネバーランド』や『陰陽師0』といったファンタジーや実写化作品に立て続けに挑戦し、非日常的な世界観に自然に溶け込みながらも、説得力ある芝居で観客を引き込んできた。現実と幻想を自由に往復できる数少ない俳優としての立ち位置は、こうして確かなものとなっていった。

『ババンババンバンバンパイア』©2025「ババンババンバンバンパイア」製作委員会 ©奥嶋ひろまさ(秋田書店)2022

 そんなキャリアの中で異彩を放つのが『ババンババンバンバンパイア』である。タイトルからしてコミカルかつ奇抜なこの作品で、板垣はシリアスな役どころから一転して突き抜けた世界観に飛び込み、キャラクターを成立させてみせた。特殊なメイクや奇想天外な設定も、彼が演じると奇妙さよりもむしろ愛嬌を帯びる。ここで示されたのは守りに入らない姿勢だ。自らのパブリックイメージを壊すことを恐れず、振り切った芝居に挑戦する柔軟さは、制作サイドにとって非常に頼もしい。シリアスもコメディも同じ水準で成立させられる俳優であると証明したことは、彼のキャスティング価値をさらに押し上げた。

 板垣のキャリアが途切れず続いているのは、話題作に恵まれてきたからだけではない。アニメーション映画『かがみの孤城』では声優として主要キャラクターを担当し、繊細な声の芝居で思春期特有の不安や孤独を丁寧に描き出した。その一方で映画『はたらく細胞』では、擬人化された細胞というユニークな役柄に挑み、エンタメとしての面白さと学びの要素を両立させる存在感を発揮した。実写・アニメ、シリアス・ユーモアといったジャンルの垣根を軽々と越えながら、きちんと結果を残してきたことこそが、板垣李光人を“次も見たい”俳優に押し上げているのだ。

 そして今回の『ばけばけ』である。半年間にわたり多くの視聴者と向き合う朝ドラは、役者にとっても試練であり成長の場だ。板垣がこの場でどのような姿を見せるのか、注目せずにはいられない。今回板垣が演じるのは、雨清水家の三男・雨清水三之丞。家督を継ぐ兄がいるために自分には役目がなく、家の中に居場所を見つけられずにトキたちの仕事場へ入り浸る青年だ。世間知らずに見えながらも、内に葛藤や苦悩を抱えた人物像は、板垣がこれまで多彩な作品で培ってきた感受性と相性がよいだろう。

 板垣自身も「こうして『ばけばけ』という作品に参加させていただけること、そして初めて朝ドラに携わらせていただけること、大変光栄に思います。演じる雨清水三之丞という役は、はたから見れば世間知らずなお坊ちゃんかもしれませんが、彼が彼なりに抱える葛藤や苦悩、時代に翻弄されるさまを全て抱きしめて誠心誠意、少しのおかしみも持ちながら演じていきたいです」とコメントを寄せている(※)。

『ばけばけ』写真提供=NHK

 初めての朝ドラ出演という大舞台で、三之丞というキャラクターにどう色を与えていくのか。板垣李光人が積み重ねてきたキャリアと個性のすべてが、ここで試されることになるはずだ。

参照
※ https://www.nhk.jp/g/blog/lbqzk8w6ioiq/

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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