『ガルクラ』総集編、新曲&新カットが激アツ 新作に期待高まる“トゲトゲ”誕生の物語

『ガルクラ』総集編、新曲&新カットが激アツ

 ロック魂が爆ぜまくって咲き乱れたTVアニメ『ガールズバンドクライ』が映画となって帰ってきた。10月3日に公開となった『劇場総集編 ガールズバンドクライ【前編】青春狂走曲』は、2024年に放送されたTVシリーズを前後編に再編集。前編からは、『ガルクラ』が「トゲナシトゲアリ」というロックバンドの誕生と成長を描こうとした作品だったことが伝わってくる。

『劇場版総集編 ガールズバンドクライ』特報 | 【前編】「青春狂走曲」 / 【後編】「なぁ、未来。」

 東京駅の前に立つ少女がいて、部屋の中を歩いて外に出ていく2人の少女がいて、神社の境内に座っている少女がいて、そして新幹線の中で眠りこけている少女がいる。『劇場総集編 ガールズバンドクライ【前編】青春狂走曲』の冒頭は、主人公の井芹仁菜が新幹線で眠っていたところを起こされるシーンから始まったTVシリーズとは違ったアバンの映像がまず流れる。そしてトゲナシトゲアリの新曲「もう何もいらない未来」が流れるオープニングへと続いて新幹線でのシーンへと移っていく。

 アバンに登場する5人はもちろん、トゲトゲのメンバーとなる安和すばるであり、海老塚智とルパであり、河原木桃香であり仁菜だ。まだ出会う前の5人がそこで描かれていることで、TVシリーズを観ていた人は『ガルクラ』という作品がトゲトゲというバンドがあってこその物語なのだということを、改めて実感できるだろう。映画が初の『ガルクラ』体験となる人にも、そこに登場する5人の物語だということが感じ取れるはずだ。

 高校を中退して熊本から川崎に出てきた仁菜が、憧れだったミュージシャンの桃香と出会い、バンドを組んで活動していくようになる中でそれぞれが心の中に抱いていたわだかまりを吐き出し、ぶつけ合う展開を軸にして進んでいく。その過程で、アクターズスクールに通っていたすばるが加わり、さらにに2人で音楽活動をしていた智とルパも加わって、トゲトゲというバンドの形が出来ていく。

 すばるは名女優の祖母から女優になることを期待されていて、それが重荷になっている。智とルパにもかつてのバンド仲間と袂を分かった事情がある。『青春狂走曲』にはそうしたメンバーのエピソードがしっかりと描かれている。ただ、年上で憧れだった桃香が相手でも、遠慮をせず苦言と暴言をぶつけまくる一方で、他人を拒絶するところがある仁菜の強烈すぎるキャラクターに目を奪われ、ジェットコースターのように上がったり下がったりする心情に振り回されて、息も絶え絶えにさせられるところが少なくない。さすがは主人公といったところだ。

総集編ならではの演出

トゲナシトゲアリ – 爆ぜて咲く 【LIVE from 「1st ONE-MAN LIVE “薄明の序奏”」】- アニメ「ガールズバンドクライ」

 総集編でもそこは変わっていない。ようやく出会えた憧れの桃香が音楽を止めて北海道の旭川に帰ると言い出して、それは嫌だと雨の中を走り回ってJR東日本の川崎駅前でライブをしていた2人組のマイクを奪い、「いっしょに中指立ててください!」と叫ぶTVシリーズ第1話「東京ワッショイ」の注目シーンも当然のように組み込まれている。そして、感動のセッションへと至って仁菜と桃香の運命的ともいえる関係をくっきりと浮かび上がらせる。

 なおかつそのシーンでは、叫んだ仁菜に桃香が投げ出されていたギターを拾ってかき鳴らして答えるまでの間に、TVシリーズにはなかった見上げるようなカットを挟んで溜めを作り、桃香の“帰還”がより感慨深く思えるような演出を施している。そんな2人の関係を拾っていくだけで、【前編】としてまとまった映画になっただろう。

 けれども、『青春狂走曲』は仁菜と桃香の関係だけに止めず、すばると祖母との関係を描き、智とルパが宅録を続けていた日々もしっかりと拾い、やがて5人がひとつのバンドとなって上諏訪のライブハウスで「トゲナシトゲアリ」となる第7話「名前をつけてやる」まで描き切った。

 全12話のTVシリーズから第8話までを一気に消化した『劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく! Re:』ほどの偏りはなかったものの、TVシリーズの半分以上を使ってでもバンドの5人が揃ってトゲトゲが現れるところまで描いてみせた。このことに何か意図があったのだとしたら、それはやはりアバンで見せていたような、『ガルクラ』をバンドに集った5人のメンバーたちの物語なのだというメッセージを、本編でも示したものだったのかもしれない。

 その分、コメディ要素、たとえば第5話「歌声よおこれ」で仁菜が初ライブのチケットを不躾に売ろうしてややドン引きされるシーンなどは削られて、観客が共感性羞恥にのたうち回らないようにしてくれていた。同じ第5話に登場した、東京ゲームショウ2025で話題となったゲーム「桃香(を)ワッショイ」の元ネタになったシーンも残念ながら削られた。智とルパが飼っているヤモリの千代丸がスクリーンの横幅いっぱいにアップで登場するシーンが残されていたのは、智のキャラ性を示す上で必要だったからか。いずれにしても、『ガルクラ』がバンドものの作品であることを、しっかり描いておきたいという意識が漂っていた。

 そうした意味は、11月14日公開の『劇場版総集編 ガールズバンドクライ 【後編】 なぁ、未来。』が終幕を迎えるときに、もっとくっきりとして見えてくるのかもしれない。TVシリーズのエピソードから、『なぁ、未来。』で描かれるのは上諏訪のトゲトゲ誕生ライブで仁菜が口走ったことに対して起こる様々な方面のリアクションが中心になりそうだと予想できる。『青春狂走曲』のラストで、TVシリーズにはなかった仁菜と桃香のにらみ合いを加え、何かひと騒動起こりそうだと強く印象づけたことからも感じ取れる。

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