『アバター』シリーズの凄さは映像だけじゃない! ドラマティックな家族の物語を振り返る

『アバター』シリーズの家族の物語を振り返る

 再び、神秘の星パンドラへの扉が開かれる……。12月19日公開の最新作『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』に向けて、第1作の『アバター』が9月26日から10月3日まで、第2作『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(以下、『WoW』)が10月3日から10月10日まで、3Dで再上映される。

(左から)『アバター』『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』©2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.

 2009年に公開された『アバター』は世界歴代興行収入1位をキープし続け、2022年に公開された続編も歴代3位を記録するという、史上最大にヒットした作品である『アバター』シリーズ。ジェームズ・キャメロン監督によるスケールの大きな撮影方法や3D映像の革新的な技術に思わず目がいってしまいがちの本シリーズだが、実は最も壮大なのはそのドラマ性だ。この再上映の機会に “『アバター』=映像革命”というイメージを超え、ジェームズ・キャメロン監督がシリーズを通して描いてきた「家族の物語」について振り返りたい。

『アバター』で築いたネイティリとの絆

 第1作『アバター』は、戦傷で車椅子生活の身となっていた元海兵隊員ジェイク・サリー(サム・ワーシントン)が、亡くなった双子の兄の代わりに“アバター”の操作員として、神秘の星パンドラの先住民ナヴィたちと接触を図る「アバター計画」に参加することから始まる。人間たちがパンドラという未開の地に眠る希少鉱物を採掘するために近づく、というのが大まかなベースラインのストーリーなのだが、そこで提案した条件を飲まないナヴィに対して、人間の中でも文化を理解し対話することを重んじる者、一方で原始的な生活への理解を試みずに武力行使をして侵略しようとする者が対立し始める。この辺りのテーマ性を含め、地球の資源や環境問題への関心も高いキャメロン監督ならではの題材とも言えるだろう。

 圧倒的な映像美や世界観によって映し出されるナヴィの生活やパンドラに入り込む物語である『アバター』。目を見張る自然描写や後半のスリリングな戦闘に目を奪われがちだが、その中心にあったのは異文化交流の中で育まれたジェイクとネイティリ(ゾーイ・サルダナ)のラブストーリーである。

『アバター』©2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.

 ジェイクがナヴィの世界で生き方を学んでいく過程は、単なる訓練描写ではなく、ネイティリとの価値観の共有であり、ネイティリが狩りの方法や自然とのつながりを教えることは、そこで彼自身の力で生きていくことへの基盤となっていく。異文化交流とは、どうあるべきなのか。そういったことに目配せしつつ、いま自分が属している共同体の声ではなく自分の心の声が何を求めるのか葛藤しながらも模索するジェイクを描くことで、ドラマ性が際立つ。人類とナヴィが全面衝突するなかで、ジェイクが人間の軍隊ではなくナヴィの仲間として戦うその選択は、古い共同体を捨てて新たな家族を築く決断でもあるからこそドラマティックなのだ。

 人類の開発侵略からパンドラを守るために戦った二人は、異なる種族を超えた絆を結ぶ。同じ目的を通して芽生える信頼、自然との一体感、そして命を懸けた選択。その積み重ねが、単なる恋愛を超えて“家族のはじまり”へとつながっていく。ネイティリと未来を共に歩むことを決意するラストのタイトルロールは、何度観ても力強い。

『アバター:WoW』“家族”の物語はよりドラマティックに

 続編『WoW』は、そこから16年後を舞台にしている。ジェイクはネイティリと夫婦となり、森で生きるオマティカヤ族の長として4人の子どもを育てる大家族を築いていた。本作の特徴として、視点がジェイク一人から“家族全員”へと広がったことで、物語がよりドラマティックになっている。

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』©2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.

 長男ネテヤムは父を尊敬しながらも苦悩を抱え続けている。次男ロアクは父の厳格さに反発し、無謀な行動に走りながらも、やがて勇気と自立を身につけていく。養子のキリは、自身の出生の秘密と不思議な力に戸惑い、母の面影を追う。人間の少年スパイダーは「敵」である人類(クオリッチ:スティーヴン・ラング)の血を引きながらナヴィの家族と共に育ってきた存在であり、ネイティリと築いた共同体に“敵の子を迎え入れる”ことの象徴となる。そんな子供たちを見守るジェイクは、前作以上に責任の重い立場として試練に臨まなければいけない。

「家族を守らなければ、それが父親の役目だ」

 そう呟くジェイクが印象的だが、本作の「家族ドラマ」へのこだわりはキャメロン監督自身の人生経験とも重なっている。1990年代以降プライベートで父親となり、子育てを経験した。その視点の変化は、『タイタニック』以降の作品全体にも色濃く表れているが、とりわけ『アバター』シリーズでは顕著だ。キャメロンは「ジェイクの物語は私自身の父としての物語でもある」と述べており、ネテヤムやロアクに映る“父親との距離感”は、自身の子どもたちとの関係を反映している部分もあるという。「5人の子供の親として経験してきたことを、芸術的に表現しようと思った」と以前、The Hollywood Reporterへのインタビューで語っていたキャメロン。

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』©2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.

「家族こそが砦だというのが、この物語の根底にある考え方です。家族は私たちの最大の弱点であり、最大の強みでもあります。だから、『こういう話ならいくらでも書ける。最低な父親になることがどんなことか、よく分かっているから』と思いました」

 若い頃には冒険や戦いの物語に惹かれていたが、父親になってからは守ることや、“継承”に心が向かうようになったキャメロン監督が自身の物語を投影しているからこそ、本作はスケールが大きい作品でありながら人間ドラマの部分で寄り添い、共感できるのだ。

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