圧倒的な表現力を持つ松下洸平だからこそ為せる業 『放課後カルテ』SPドラマに感じた真価

SPドラマに感じた『放課後カルテ』の真価

 今回、中心を担っていたのは第八小の卒業生・一希(上田琳斗)だ。複雑な家庭環境で破壊衝動を募らせていた羽菜(小西希帆)に楽しい方に逃げることを教え、その心を苦しみからいっとき解放した一希。やんちゃだけど、ストレスの対処法を熟知していて、かつ周りが見えている彼は誰よりも大人だった。だが、そこまで一希を大人にした理由が気になっていた視聴者も多いのではないだろうか。

 一希は父・剛毅(大谷亮平)が、突然新しい母・伽耶(平愛梨)と妹を連れてきたこともあり、家庭の中で居心地の悪さを感じていた。そんな中、伽耶がバセドウ病を患っていることを知り、一希は居場所を得たい一心で部活を辞めて家事に徹するようになる。そんな一希の変化をいち早く察知したのが、羽菜だ。

 羽菜はかつての自分のように苦しんでいる一希の力になろうとするが、本人は何も話そうとしない。また、学校で話しかけようものなら周りに冷やかされたり、小学生の頃は通じていた一希の優しさからの行動が却ってクラスメイトから反発を呼んだりと、中学生なったからこその変化が一希を孤立に追い込んでいく。そのせいで余計に意固地になって心を閉ざす一希に、羽菜が放った「面倒くさくても頑張って伝えるのって、大人になることなのかも」という台詞にはこちらまでハッとさせられた。大人でも面倒くさがって、自分の気持ちを相手に伝えることから逃げがちだ。それこそ、剛毅も伽耶も一希を子ども扱いし、家族の問題から遠ざけていた。そんなふうに子どもを守るつもりが、逆に寂しい思いをさせていることは往往にしてある。

 子どもは大人が思う以上に周りをよく見ていて、よく考え、知らないうちに成長しているものだ。愛莉もまた、牧野の手が及ばないところで生きる意味を見つけていた。彼女が治療に前向きになれたのは、同じ病気を抱える紬(泉谷星奈)に希望を与えたいと思ったから。誰もが自分のことで精一杯で、周りを見る余裕すらもない社会だが、人を助けることが、自分を助けることに繋がることもある。すべての痛みを知っている必要はない。大人でも気づかなかった澪(諸林めい)の耳の不調に、わずか小学2年生の直明(土屋陽翔)が気づいたように、大事なのは視野を広く持つこと。

 「わからないことを知りたいと思う。その気持ちを大切にするんだ。だから、よく見ようとしろ。友達のことも、自分のことも」という牧野の台詞は、今を生きるすべての人に向けられたメッセージだ。小さな社会で懸命に生きる子どもたちの姿から、牧野を媒介に私たち大人が学びや気づきを得る、本作の真価を改めて感じたスペシャルドラマだった。

『完全不倫 ― 隠す美学、暴く覚悟 ―』の画像

『放課後カルテ 2025秋』

あの問題医が帰ってきた!小学校の保健室で「言葉にできないSOS」と向き合ってきた小児科医・牧野先生(松下洸平)が、今度は中学校、そして病院の子ども達と向き合う

■配信情報
『放課後カルテ 2025秋』
TVer、Huluにて配信中
出演:松下洸平、森川葵、ホラン千秋、平岡祐太、はいだしょうこ、高野洸、六角慎司、武田真一、ソニン、和田聰宏、加藤千尋、吉沢悠、田辺誠一、大谷亮平、平愛梨、永田崇人、金井美樹、内田慈、石野真子
原作:日生マユ『放課後カルテ』(講談社『BE・LOVE』所載)©︎日生マユ/講談社
脚本:ひかわかよ
演出:鈴木勇馬
プロデューサー:岩崎秀紀、秋元孝之、大護彰子
協力プロデューサー:大平太
チーフプロデューサー:松本京子
音楽:得田真裕
制作協力:オフィスクレッシェンド
©︎日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/houkagokarte/
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