『放課後カルテ』松下洸平が宿す“温かさ” 牧野と子どもたちをつなぐ信頼のまなざし

『放課後カルテ』松下洸平の温かさ

 2024年10月期に放送され、名作として今もなお多くの人の心に刻まれている『放課後カルテ』(日本テレビ系)がスペシャルドラマ『放課後カルテ 2025秋』となって帰ってくる。

 『放課後カルテ』は、医師免許を持ちながらも病院を飛び出し、とある小学校の養護教諭として働くことになった偏屈な医師・牧野(松下洸平)を主人公とするヒューマンドラマだ。冷淡でぶっきらぼうに見える牧野が、保健室に駆け込む子どもたちの心身の不調や、家庭環境に根ざした問題に向き合いながら、少しずつ彼らの信頼を得ていく姿を描いてきた。学校という小さな社会を舞台に、“心の声に耳を傾けること”の大切さを浮かび上がらせた本作は、ただの学園ドラマでも医療ドラマでもない、独自の位置づけを確立してきた。

 今回の作品は、ただの続編という位置づけではない。ドラマ終了後の間に松下洸平が積み重ねてきた数々の役柄と挑戦が、そのまま牧野の再登場に重なっているからだ。

 そもそも松下が演じる牧野という人物は、子どもの心のSOSに不器用ながら耳を傾ける存在だった。冷たい言葉を吐きつつも、保健室に駆け込む子どもたちの声を一つも取りこぼさない。今回の舞台は中学校や病院へと広がり、より複雑な問題に直面することになる。

 この複雑な牧野像を等身大に映し出せるのは、松下が持つ繊細な感受性と確かな演技力があってこそだ。本作放送前の作品で言えば、たとえば『9ボーダー』(TBS系)で演じたコウタロウは、SNSで賛否を巻き起こした。吐息交じりの台詞回しに加えて、キャラクターに没入した視聴者は「コウタロウ沼」と呼んで熱狂した。芝居の“クセ”が議論を呼びながらも、多くの人を惹きつけた事実は、彼が安定したスタイルに安住せず、役柄に応じて表現を変容させる俳優であることの証左だろう。

 2023年10月期放送の『いちばんすきな花』(フジテレビ系)では、『放課後カルテ』と正反対の魅力を見せていた。内向的な人物の微細な感情を、表情や仕草だけで描き出す松下の姿には派手さはない。しかし、役の内面を丁寧にすくい取る演技は、舞台で培った技術の結晶でもある。どちらも同じ俳優が生み出したと考えると、その振れ幅は驚異的だ。

 松下の多様性を支えているのは、舞台で積み重ねた経験にもある。2025年に上演されたミュージカル『ケイン&アベル』は、ジェフリー・アーチャーの名作を世界初演として舞台化する壮大な試みであると同時に、現代の観客に向けて「宿命の対立」という普遍的テーマを鮮烈に提示した作品でもあった。ダニエル・ゴールドスタインのスピーディーかつ緻密な演出と、フランク・ワイルドホーンの劇的な楽曲が織りなす舞台空間は、観客を一瞬たりとも手放さない。そこに静かな演技の松下と、全身を使ってダイナミックに表現する松下優也という2人の俳優が向き合うことで、ただの翻案にとどまらない“新しい舞台の物語”として花開いていた。結果として、この舞台はキャスティング発表時の先入観を軽やかに裏切り、俳優・松下洸平のキャリアにおける決定的な転換点となると同時に、日本ミュージカル史の新しいページを刻んだといえるだろう。

 そして『放課後カルテ』を語る上で欠かせないのが、子役との関係だ。松下は「同じ俳優として年齢は違うけどやっていることは一緒。仕事の向き合い方を考える場面がいっぱいあった」と語り、常に対等な立場で現場に臨んできた(※)。その温かな視線が、現場の空気を柔らかくし、子どもたちの自然な演技を引き出してきたのだろう。

 今回の『放課後カルテ 2025秋』には、前作で牧野に支えられた子どもたちが成長した姿で再登場する。中学生になった藤野一希(上田琳斗)や、手術を経て生き方を模索する冴島直明(土屋陽翔)。彼らとの再会は、松下と子役たちが築いてきた“信頼”をさらに深め、映像に自然な化学反応を生むはずだ。さらに、病を抱えた新キャラクター・神谷愛莉(松岡夏輝)も登場し、牧野がどのように寄り添うかが見どころとなる。新しい子役との信頼構築もまた、松下の真価を示す瞬間となるだろう。

 松下の子役を一人の俳優として尊重する姿勢は、『放課後カルテ』の牧野像に重なり、現場を温かく満たす力となっている。今回のスペシャルで再び牧野先生を演じることは、松下洸平にとって原点回帰であると同時に、新たな挑戦の入口でもある。偏屈な医師の“再診察”は、俳優・松下洸平がこれからどんな物語を紡いでいくのかを示す予告編のように映るに違いない。

参考
※ https://news.mynavi.jp/article/20250921-3471423/

『完全不倫 ― 隠す美学、暴く覚悟 ―』の画像

『放課後カルテ 2025秋』

あの問題医が帰ってきた!小学校の保健室で「言葉にできないSOS」と向き合ってきた小児科医・牧野先生(松下洸平)が、今度は中学校、そして病院の子ども達と向き合う

■放送情報
『放課後カルテ 2025秋』
日本テレビ系にて、9月24日(水)21:00〜22:54放送
出演:松下洸平、森川葵、ホラン千秋、平岡祐太、はいだしょうこ、高野洸、六角慎司、武田真一、ソニン、和田聰宏、加藤千尋、吉沢悠、田辺誠一、大谷亮平、平愛梨、永田崇人、金井美樹、内田慈、石野真子
原作:日生マユ『放課後カルテ』(講談社『BE・LOVE』所載)©︎日生マユ/講談社
脚本:ひかわかよ
演出:鈴木勇馬
プロデューサー:岩崎秀紀、秋元孝之、大護彰子
協力プロデューサー:大平太
チーフプロデューサー:松本京子
音楽:得田真裕
制作協力:オフィスクレッシェンド
©︎日本テレビ
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