『ウンジュンとサンヨン』が描く2人の女性の複雑な関係 魂を震わせる“マジックモーメント”

『ウンジュンとサンヨン』の興味深い点を考察

 2人の複雑な関係は、大学時代も続くことになる。ここからのウンジュンとサンヨンを演じるのは、メインキャストのキム・ゴウンとパク・ジヒョンだ。持ち前のキュートさと強い意志を感じる眼差しを持つキム・ゴウン。掘りが深く憂いを含んだ、より大人っぽい表情を見せるパク・ジヒョン。その対照的な魅力は、それぞれに2つの役柄を引き立て合う。

 2番手にまわりがちなウンジュンと、華やかなサンヨンという対比だったはずだが、面白いことに、彼女たちの性格自体はその逆だということも分かってくる。ウンジュンは、まっすぐで素直な態度が周囲の共感を呼び、友人も多い。対してサンヨンは、どこか冷めていて誰かと感情を共有することが少ない。つまり、“陽”と“陰”の違いが際立ってくるのだ。そんな性質は、サンハク兄さんと同名の“キム・サンハク先輩”(キム・ゴンウ)へのアプローチの違いにも表れる。

 とはいえ本シリーズは、陰にまわるサンヨンの性質をただ短所として描いているわけではない。2002年のサッカー日韓ワールド杯という大イベントにおいて、韓国ナショナルチームは大躍進した。大勢の人々が狂喜するなか、サンヨンはその輪に入らず冷めた態度を見せる。この描写は、彼女の個人主義的な面や、他人に染まらず自身の能力に集中する個性を強調しているといえよう。そして、その感性は写真サークルで見事な作品を撮り上げることに結実するのである。

 ここで興味深いのは、彼女たちがかたちづくる三角関係の影響で、恋愛関係にある学生同士が別れることで噂が広まり、気まずさから大学に通うこと自体が困難になるというケースが顕になる部分だ。アメリカはもとより、日本の大学生でも、恋愛一つでここまでの状況に追い込まれることは稀だ。このあたりは、メンツが重要な韓国社会の特異性を垣間見るところだ。

 次のライフステージである、映画会社でのプロデューサーとしての競争では、逆にウンジュンが有利な面が多くなってくる。サンヨンは計算による合理的なマネージメント能力で圧倒するが、共感や信念の力を持つウンジュンは信頼を勝ち取り、より円滑に人を動かしていけるのだ。組織で働くこと自体においては、ウンジュンに軍配が上がるだろう。とはいえ、そんな2人の勝負は想像できない方向に転がっていく。

 両者は性質が異なるからこそ実力伯仲し、それぞれが相手の持っているものをうらやみ、コンプレックスを刺激される。こういった人生をかけたライバル的な関係性や、そこで生まれる愛憎入り混じった感情は、兄弟や姉妹などの立場に代表される、普遍的なものかもしれない。日本のドラマ作品としては、トーンが違えど『牡丹と薔薇』に近いものがあるかもしれない。

 韓国社会として特徴的なのは、2人が同じ年代だからこそ衝突するという部分。本シリーズで描かれるように韓国では、年上/年下、先輩/後輩の上下関係が厳しい縦社会だ。だからこそ同い年がライバル関係になりやすいところがある。そこで生まれる勝敗は、人生そのものをどれほど充実したものにするかという範囲にまで及ぶこともあるだろう。

 だが、ライフステージごとに熾烈な戦いを繰り広げてきた2人は、ある意味で最も遠慮しない関係性であり、影響を与え合って乗り越えようと切磋琢磨する、貴重な存在であることも確かなことだ。その関係は単なる友情や憎悪を超えて、一種の宗教性、哲学性をも帯びたものになっていく。とはいっても、それを描くための本シリーズは、1シーズンで終わるリミテッドシリーズであるとはいえ、1時間程度のエピソードが15もある。年代ごとの関係を描く内容は、一気見しようとすると、さすがに長丁場に感じてしまう印象もある。

 しかし、こういったナラティブ(叙述形式)や時間感覚は、ドラマ畑特有のものであり、『愛と、利と』や『ブラームスは好きですか?』を手がけてきたチョ・ヨンミン監督だからこそ到達できる境地だったといえるだろう。そして、子ども時代のウンジュンがユン先生やサンハク兄さんの優しさや魅力に触れた瞬間のように、必ず観る者の魂を震わせようとするような“マジックモーメント”が、必ずエピソードごとに忍ばせてあるのも特長だ。ぜひ、この濃密な時間感覚のなかで2人の女性の人生と、その間にある魔法のようにきらめく瞬間を、丸ごと追体験してみてほしい。

■配信情報
『ウンジュンとサンヨン』
Netflixにて配信中
出演:キム・ゴウン、パク・ジヒョン、キム・ゴンウ
制作:チョ・ヨンミン、ソン・ヘジン

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