『ウンジュンとサンヨン』が描く2人の女性の複雑な関係 魂を震わせる“マジックモーメント”

『ウンジュンとサンヨン』の興味深い点を考察

 韓国ドラマ界に、また一つ印象深い作品が加わった。Netflix配信のリミテッドシリーズ(1シーズン限定ドラマ)『ウンジュンとサンヨン』である。

 描かれるのは、10代、20代、30代、そして“現在”の40代と、長い年月を通して寄り添いぶつかり合い、ときに傷つけ合う、2人の女性ウンジュンとサンヨンの複雑な関係だ。小学生から中年まで、各ライフステージで、彼女たちの物語が続いていく。ここでは、そんな本シリーズ『ウンジュンとサンヨン』の内容を紹介し、鑑賞に値する興味深い点を掘り起こしていきたい。

 “銀中”と書くウンジュンは、父親を亡くした傷を心に受けながら、母子家庭で裕福とはいえない小学生時代を送っている。そこに現れたのが、転校生の“上演”サンヨン。彼女はウンジュンを超える優等生で、権力者の親の庇護のもと、学校でも特別扱いをされる。この銀中と上演という名前から、“金に及ばない2番手”であるイメージや、“いつでも人々の注目を浴びる存在”という、2人の性質があくまでドラマのなかで暗示される。

 先頃Netflixでリリースされた韓国映画『告白ヒストリー』では、1980年代生まれの監督が90年代の物語を描いていたが、ウンジュンとサンヨンもまた、同じ世代のキャラクターである。彼女たちの子ども時代に韓国は民主化されたが、一部の教師の高圧的な姿勢は長らく残り、貧富の差、親が権力を持っているかどうかによって生徒を差別する姿が、本シリーズによって描かれる。

 教師が生徒を選り好みし、最も貧しい生徒には椅子にも座らせないというシーンからは、その陰惨さがどれほど、この時代を生きた子どもたちに傷を与えたかを彷彿とさせる。とはいえ、このような韓国社会に根深く残る軍事政権時代から続く問題を、そのまま問題として描く作品が多いという事実は、むしろ現在の韓国のエンタメ業界の健全性を感じ取れる部分だといえる。

 そんな差別的な仕打ちに怒りをおぼえるウンジュンは、親が絶対的な力を持ちヒエラルキーのトップに立つサンヨンに対して反感を持つことになる。小学生らしく、その感情はドッジボールで彼女を執拗に狙うといった素朴な態度に表れる。しかしその内実は、彼女の正義感と嫉妬が混じり合った複雑なものだった。また、サンヨンがウンジュンを打擲するという事件も経て、2人の関係は悪化していく。

 ウンジュンの小学生時代は、このように暗いものとなっていくが、学校で唯一、悩みを聞いて優しく接してくれたのが、女性教師の“ユン先生”(ソ・ジョンヨン)。彼女は、じつはサンヨンの母親だったことが明らかになる。ウンジュンにとってユン先生はかけがえのない存在となっていくが、サンヨンは母親がウンジュンに肩入れすることで、疎外感をおぼえていく。

 こういった反目し合う関係ながら、ユン先生のはからいによって、ウンジュンとサンヨンはともに同じ部屋で勉強する仲となる。彼女たちを教えるのは、サンヨンの兄、チョン・サンハク(キム・ジェウォン)である。眉目秀麗でインテリ、細やかな気遣いができる“サンハク兄さん”に、ウンジュンは自然と憧れを抱く。サンヨンはそんな2人のやり取りも面白くない。サンハク兄さんの影響で写真に興味を持ち、2人が自分としない趣味の会話をすることにも不快感を持つのである。

 また、彼女たちと同世代に青春を過ごし、さまざまな映画を観ていた視聴者は、この時代に言及される、バリー・ソネンフェルド監督の『アダムス・ファミリー』シリーズ、『ギルバート・グレイプ』(1993年)、『チャイニーズ・オデッセイ』(1995年)などなど、彼女たちが影響を受けてきた懐かしいタイトルの登場に共感するかもしれない。

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