『あんぱん』阿部サダヲが宿す“人情味” のぶと嵩を惹きつけた粋な人柄を振り返る

その場に彼がいると、自然と笑みが溢れてしまう。NHK連続テレビ小説『あんぱん』の第115話で久々の登場となった“ヤムおんちゃん”こと屋村草吉(阿部サダヲ)は、あの頃と変わらないのらりくらりとした態度と歯に衣着せぬ物言いで、のぶ(今田美桜)や蘭子(河合優美)、メイコ(原菜乃華)らの表情を綻ばせた。
のぶや嵩(北村匠海)を幼少期の頃から知り、今もなお変わらない態度で朝田家の3人娘と接することができるのは、家族以外では草吉くらいのものだろう。風来坊のパン職人でありながら、幼いのぶや嵩の必死の説得で御免与町に留まり、長らく朝田家の人々とともにパンを作り続けた姿がすでに懐かしい。

飄々と生きていて、どこか掴みどころがない。誰にも分け隔てなく失礼で、特に釜次(吉田鋼太郎)とはよく衝突していた。それでも、久しぶりに草吉の姿を観て思い出すのは、世の中の空気に流されない断固とした姿勢と、のぶや羽多子(江口のりこ)の頼みを断りきれない人情味に溢れる姿だ。
信条に反すると感じたら、意地でも首を縦には振らない。それでいて、人間関係や将来の夢に思い悩むのぶや嵩に砕けた口調で接する姿は、まるで親戚の叔父さんとの会話を聞いているかのようだった。

御免与町を去る前、陸軍から依頼された乾パン作りを拒否した草吉。彼が経験した戦争の爪痕は、想像できないほど深く刻まれていた。しかし、釜次からの必死の説得を受けたあと、周囲から批判の目を向けられる朝田家のためを思って、草吉は心の傷を顧みずに乾パン作りを引き受ける。
彼の情の深さは再会後、のぶに送った言葉にも表 現れていた。もう戦争や国に振り回されたくない一心で根無草に生きていた草吉だったが、「世の中がひっくり返ったあと、愛国の鑑はどうやって生きていくのか。立ち直れんのかどうか」と、終戦後にのぶを待ち受ける人生を心配していたことを明かす。さらに、嵩が脚本を手がけたラジオドラマ『「やさしいライオン』」を耳にして、パン屋の休憩所で感慨深くもどこか誇らしげな表情を浮かべている姿も映し出されていた。おそらく御免与町を去ってからも、のぶや嵩の行く末を気にかけていたのだろう。




















