松本潤が“松本潤”を封印した凄さ 『19番目のカルテ』を傑作たらしめた新たなアプローチ

松本潤が“松本潤”を封印した凄さ

 総合診療科は2010年放送の日曜劇場『GM~踊れドクター』(TBS系)でも取り上げられているが、この作品では、刑事ドラマの会議のようにスタッフが複数人で集まり、病状について話し合う場面や、主演の東山紀之によるダンスやターンなど、目を引く演出が頻繁に用いられている。なお、こちらの作品でも東山演じる総合診療医・後藤英雄が“名探偵”と例えられているが、『19番目のカルテ』の徳重とは異なり、その言葉は「凄腕の総合診療医 = 名探偵」のように、医者と一体として捉えられているように見えた。

 その一方で『19番目のカルテ』では、爽快な謎解きや一目で盛り上がるアクションは描かれない。『GM~踊れドクター』にコメディ要素も強かったためもあるだろうが、著名な俳優たちが体を動かして表した「総合診療科」の個性を、松本は一人で、作品序盤で「気味悪がられている」とも言われた行動で視聴者の心に刻んでいる。

 加えて松本がすごいのは、多くの視聴者のイメージと異なるおとなしい役柄で視聴者を引き付けながらも、その輝きで私たちへ明るい希望を与える点だろう。最終話では徳重の師であり、田中泯が演じる赤池登へ、眼鏡の奥からでも伝わる眼力で自らの思いを伝えていた。

 瞳を潤ませながらも、診察室で静かに椅子に座り、声を荒げることは決してない。これほどまでに穏やかな口調で、淡々とした話し方で、心を閉ざしかけた師の心をこじ開ける頑なな優しさを表す役者は他にいないように思う。

 

 松本は本作にあたってのインタビューのなかで、「僕自身のせっかちな部分をおさえて、なるべくゆっくり話すことを、最初の頃はかなり意識しました」と語っていた(※)。数多くのドラマで主演を務め、スター的な振る舞いを望まれてきた彼にとっても、徳重というキャラクターは当初はあまり馴染みのないものだったのだろう。

松本潤が考える“日曜日のドラマ”だからこそ届けたい思い 座長として大事にする“対話”も

数々の作品で鮮烈な印象を残してきた松本潤が、TBS系日曜劇場『19番目のカルテ』で自身初となる医師役に挑んでいる。演じるのは、「…

 しかし結果的には、視聴者が抱く“松本潤”のイメージとのギャップによる違和感に、おとなしい徳重の振る舞いのなかでも自然に放たれる輝きに、私たちは引き込まれた。最終話の終盤、総合診療医の先駆者である赤池は、「自分ではない誰かに、ほんのちょっとだけ優しくなる」と話していた。

 医師が抱く優しさ、強さ、それらを表せる人物は松本以外にもいるかもしれない。ただ、徳重役として、いい意味での想定外であった松本だからこそ、これまでと異なるアプローチで、総合診療医として、作品のテーマを一層鮮やかに描き切れたのだろう。

参照
https://realsound.jp/movie/2025/08/post-2118519.html

『19番目のカルテ』の画像

日曜劇場「19番目のカルテ」

富士屋カツヒトによる連載漫画『19番目のカルテ 徳重晃の問診』を原作に、坪田文が脚本を手掛けるヒューマン医療エンターテインメント。松本潤がキャリア30年目にして初となる医師役に挑む。

■配信情報
日曜劇場『19番目のカルテ』
TVer、U-NEXT、Netflixにて配信中
出演:松本潤、小芝風花、新田真剣佑、清水尋也、岡崎体育、池谷のぶえ、本多力、松井遥南、ファーストサマーウイカ、津田寛治、池田成志、生瀬勝久、木村佳乃、田中泯
原作:富士屋カツヒト『19番目のカルテ 徳重晃の問診』(ゼノンコミックス/コアミックス)
脚本:坪田文
プロデューサー:岩崎愛奈
企画:益田千愛
協力プロデューサー:相羽めぐみ
演出:青山貴洋、棚澤孝義、泉正英
編成:吉藤芽衣、髙田脩
©︎TBSスパークル/TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/19karte_tbs/
公式X(旧Twitter):@19karte_tbs
公式Instagram:19karte_tbs
公式TikTok:@19karte_tbs

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