『奪い愛、真夏』は夏ドラマ史上最恐の衝撃作 『奪い愛、冬』から受け継がれたカオスな構造

夏のテレビドラマシーズンで、視聴者の度肝を抜いた作品といえば『奪い愛、真夏』(テレビ朝日系)だろう。一見すると禁断の恋愛劇だが、その実態は常識や倫理観を次々に飛び越えていく“狂気のエンターテインメント”。視聴者は毎話ごとに予測不能の展開に翻弄され、SNSは放送直後からカオスを共有する場と化した。まさにこの作品は「夏の風物詩」と呼ぶにふさわしい熱狂を生んできた。
物語の中心にいるのは、時計メーカー「TOWANI」で働くPR担当の海野真夏(松本まりか)、彼女の元恋人と瓜二つの御曹司社長・空知時夢(安田顕)、そして夫を深く愛しすぎるがゆえにその愛情を暴走させてしまう正妻・未来(高橋メアリージュン)の3人である。真夏と時夢の再会は、かつての想いを再燃させる一方で、未来の強烈な嫉妬と支配欲を呼び覚まし、愛の三角関係はやがて灼熱の地獄絵図へと変貌していく。未来の一途な思いが裏切りによって狂気に転じていく様子は恐ろしくも滑稽であり、そこにこそ本作の魅力がある。

このカオスな構造は2017年の『奪い愛、冬』(テレビ朝日系)から受け継がれている。水野美紀が演じた正妻・蘭の「ここにいるよぉ〜」という名台詞はいまも語り継がれるが、その怪演のエッセンスは、松本まりか、そして高橋メアリージュンへと引き継がれた。高橋が演じる未来は、夫を失う不安に突き動かされ、真夏と時夢を自宅に連れ込み無理やり食卓を囲ませたり、職場で不倫を暴露する個展を開いたりと、常識をはるかに超えた復讐を繰り返していく。その行動は本人にとっては切実であるほどに、視聴者には思わず笑ってしまうような奇妙さを帯びて映るのだ。

しかし、こうしたカオスは俳優たちの熱演だけで生まれたわけではない。脚本を手掛ける鈴木おさむは、従来の愛憎劇をひとつ引いた視点から見つめ、あえて過剰さを盛り込むことで遊びの要素を強く打ち出した。その発想を受け取った俳優陣が思い切り表現することで、愛と狂気の連鎖はさらに勢いを増し、作品そのものがリアリズムを超えた独自のシリーズへと育っていった。





















