ディズニー版ではカットされた内容も? 『眠れる森の美女』原作のさまざまなバリエーション

ディズニー版『眠れる森の美女』を原作と比較

チャイコフスキーによるバレエ版での改変

 『眠れる森の美女』といえば、チャイコフスキーの三大バレエの1つとしても知られている。これはペロー版を下敷きにしたものだが、ストーリーにはいくつか大きな違いがあるので紹介しておこう。オーロラ姫の洗礼式に招かれたのは6人の妖精で、招かれなかった悪の妖精カラボスと呪いを緩和する善の妖精リラが大役として配置されている。オーロラの16歳の誕生日には、4人の求婚者が登場。そんななか、カラボスが変装した老婆から花束を受け取ったオーロラは、その中に仕込まれていた針に指を刺して眠りに落ちる。100年後、リラが王子をオーロラのもとへ導き、キスで彼女を目覚めさせる。そしてフィナーレとなる結婚式のシーンでは、赤ずきんと狼や、長靴をはいた猫などが式に招かれ、それぞれ個性的な踊りを披露する。これは原作ペローつながりの楽しい演出だ。さらにフランスのドーノワ夫人が書いた『青い鳥』に登場する青い鳥(王子が変身した姿)とフロリナ王女の再会が描かれ、宝石の精が登場するなど、華やかなシーンになっている。

フィリップ王子との結婚後のエピソード

 こうして結ばれたオーロラ姫とフィリップ王子。グリム版とディズニー版ではここで「めでたし、めでたし」だが、ペロー版は少し違う。オーロラ姫とフィリップ王子の結婚は2年間秘密にされ、その間に夫婦は2人の子どもを授かる。さらに2年後に国王が亡くなりフィリップが王となったタイミングで、オーロラと子どもたちの存在が国中に知らされるのだ。ショッキングなのはフィリップの母が実は人食い魔女であり、孫たちを食べようとするという展開だ。しかしそれがフィリップの知るところとなってしまい、彼女は発狂して自ら命を絶つ。フィリップ王子の母はディズニーの実写映画『マレフィセント2』(2019年)にも登場しているので、そちらを観るのも興味深いだろう。

 しかしもっと恐ろしいのは、やはりバジーレ版だ。王子はターリアのことをすっかり忘れて結婚して王になり、あるときふと思い出して彼女のもとを訪れる。そして子どもが誕生したことを知り、単純によろこぶのだ。しかしこれに嫉妬した王妃は、子どもたちをスープにして王に食べさせようと計画する。この命令を受けた料理人は、当然だが子どもたちを気の毒に思い、ヤギの肉でスープを作った。さらに王妃はターリアを火あぶりにしようとするが、王がこれを阻止。スープの件を聞いて激怒した彼は、王妃を火の中に放り込んでしまう。バジーレ版の王子(のちの王)は人格を疑うような行動が目立つ。

 現代では童話として親しまれている物語でも、もともとは大人向けで、残酷だったり性的だったりする内容を含むものは少なくない。『眠れる森の美女』もそんな物語の1つだ。著者や時代によって変遷してきた物語だが、現在知られている子ども向けに改変された展開も、そんなバリエーションの1つとして楽しむことができる。ここで紹介した原作の特徴のいくつかは、ディズニー・アニメーション版のセリフに落とし込まれていたりするので、それを探して楽しむのも一興ではないだろうか。

■放送情報
『眠れる森の美女』
日本テレビ系『金曜ロードショー』にて、9月12日(金)21:00~23:04放送
※地上波初放送 ※本編ノーカット
声の出演:すずきまゆみ(オーロラ姫[ブライア・ローズ]役/メアリー・コスタ)、古澤徹/〈歌〉立花敏弘(フィリップ王子役/ビル・シャーレイ)、沢田敏子(マレフィセント役/エリナー・オードリー)、麻生美代子(フローラ役/ベルナ・フェルトン)、京田尚子(フォーナ役/バーバラ・ジョー・アレン)、野沢雅子(メリーウェザー役/バーバラ・ルディー)、徳川龍峰(ステファン王役/テイラー・ホムズ)、富田耕生(ヒューバート王/ビル・トンプソン)
原作:シャルル・ペロー “SLEEPING BEAUTY”
監督:クライド・ジェロニミ
製作総指揮:ケン・ピーターソン
脚本:アードマン・ペナー
アニメーション監督:ミルト・カール、フランク・トーマス、マーク・デイビス、オリー・ジョンストン、ジョン・ラウンズベリー
音楽:チャイコフスキー〜バレエ組曲「眠れる森の美女」より
©2025 Disney

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