『国宝』から『19番目のカルテ』へ セリフだけに頼らない田中泯の“オドリ”という表現

9月7日に最終回を迎えた日曜劇場『19番目のカルテ』(TBS系)。最終回前となる第7話には、息を呑むほど美しいシーンが収められていた。主人公・徳重晃(松本潤)とその恩師である赤池登(田中泯)の、夕暮れ時を前にした浜辺でのやり取りを描いたシーンである。その美しさに、まばたきをしてはならないとすら思ったほどだ。同じように感じた視聴者は少なくないのではないだろうか。そこには田中泯という表現者の圧巻のパフォーマンス(=オドリ)があったのだ。
松本潤が主演を務めた本作は、現在の医療の分野において19番目の新領域として加わった「総合診療科」をモチーフにしたドラマである。病気を診るだけでなく、心の状態や生活の背景をもとに患者にとってベストな道を見つけ出し、生き方そのものに手を差し伸べる、そんな総合診療医の活躍を描く作品だ。田中が演じる赤池登とは、先述しているように主人公・徳重晃の恩師。かつては大病院に勤めて総合診療医を育成していたが、現在はとある離島の“島の医師”として住民たちの生活に寄り添っている。そんな存在だ。本作における最重要人物である。

繰り返しになるが、第7話の浜辺のシーンは息を呑む美しさだった。師弟関係にある徳重と赤池は、このふたりだからこそ通じ合う対話をしていた。会話ではなく、対話である。私たち視聴者は彼らの関係性をほかのどの登場人物たちよりも詳しく知っていたわけだが、あのシーンに関してはふたりの間にうまく入っていくことができなかった。
それまでの物語の流れから、彼らが互いにどんな存在であるのかを私たちは知っている。しかし、あのふたりの間に漂う空気がどのようなものなのかまでは、私たちは知ることができない。そんな空気の濃度が一気に上昇し、テレビの画面を満たしていた。それがあのシーンである。

弟子である徳重の語りかけに対して、赤池は静かに彼の周りを歩きはじめた。その背景にある波の音は、決して絶えることがない。この一連の流れに触れた瞬間から、画面から目が離せなくなった。これから何かが起こる──そんな予感に満ちていた。するとやはり、赤池は大きく動き出した。母なる海を前に、彼は語りはじめる。それは“生命の理”に関するもの。このシーンにおける赤池のセリフはもちろん用意されていたものに違いないはずだが、彼を演じる田中は言葉以上に、自身のカラダで語っていた。彼が生み出す一つひとつの動きは、たんなる身振り手振りとは違う。世界的なダンサーである田中泯だからこそ生み出すことのできたシーンだろう。主演の松本とのセリフの“やり取り”から、大自然との“踊り”へと発展していたのだ。作品をともに創っているのはキャストやスタッフだけではない。私たちはつい忘れてしまいがちだが、そこにある環境のすべてが共同創作者なのだ。





















