『19番目のカルテ』田中泯が見せた『国宝』に通じる舞踊の魂 師弟のドラマは最終章へ

8月31日放送の『19番目のカルテ』(TBS系)第7話では、最終話を前にして、師から弟子へバトンが託された。
休暇を利用して離島の診療所を訪れた徳重(松本潤)。目的は医師の赤池(田中泯)に会うため。魚虎総合病院へ送りつけられた大量の蔵書が気になって、直接確かめに来たのだった。
「僕はあきらめ方がわからないんです」
回想シーンから始まった第7話。赤池が見ていたのは、午睡中の夢だった。講義する赤池にまじめに質問する若き日の徳重。時は流れ、離島で診療所じまいの準備をする赤池。病院がある島に橋が開通する。本土とはフェリーで行き来でき、いざというときは魚虎総合病院へ搬送ができる。離島の診療所は用済みというわけだ。
第6話で滝野(小芝風花)とのシーンがあった赤池が、徳重と顔を合わせるのは、そこまで久しぶりというわけではないだろう。けれども、師匠と弟子が面と向かって対峙するのは、この2人でなければできない話があるからだと察せられた。
回想シーンで総合診療科の意義を説いていた赤池は、その後、離島で地域医療を担い、総合診療を実践してきた。その間、徳重は赤池に師事し、診療所で医療の経験と思い出深い日々を送ってきたことは、島民から「若先生」と呼ばれる往時のエピソードからうかがえる。
引退して悠々自適の生活を送ると赤池は言うものの、そこに何か理由があると徳重は感じているのだろう。しかし、徳重は話を急がない。赤池の日常につきあい、じっくり話を聞こうとする。当然、赤池はそれをわかっていて、「患者はときに嘘をつく」などと意味深な言を吐きながらも、大事なことは口にしない。
赤池が黙っていた理由は第7話ラストで明らかになるのだが、そこに至る師と弟子の交流が第7話の白眉だった。土に語りかける赤池、その呼吸を観察する徳重。急患の少年を診る赤池と徳重の姿勢は、師と弟子のあうんの呼吸を感じさせた。
一連の流れが極まったのが海岸のシーンだ。故人である患者をしのびながら、徳重は言葉をつむぐ。徳重の中では、赤池がかつて放った言葉が生きていて、愛弟子の言葉を受けて、今度は赤池が思いのたけを口にする。大自然の借景と天然の音響をバックに「まあるいなあ」と呼びかける姿は孤高の域に達していた。
赤池の表現は、生も死もすべて包み込む自然と宇宙、限りある命を生きようとする人間という存在、それらと一体となった自分、という詩心の発露と考えられる。また、医師として真摯に命と向き合ってきた赤池が、自身の限りある生を悟って抱いた率直な実感でもあるのだろう。
大地に根差して独自の舞踊を追求する田中泯が、赤池というキャラクターを通して、芸術の神髄を伝えているようでもあり、映画『国宝』で演じた歌舞伎役者で人間国宝の小野川万菊にも通じる、田中自身が究めた芸道の到達点を示すような演技だった。
第7話で、徳重と赤池の関係に対置されていたのが、滝野、そして心臓血管外科医の戸田(羽谷勝太)だった。徳重が不在のタイミングで、滝野は、総合診療医として手術を予定した患者の診療チームに加わる。戸田は、茶屋坂(ファーストサマーウイカ)の指導を受けていたが、康二郎(新田真剣佑)の要請で、執刀医の大役を引き受ける。
滝野と戸田の姿は、師から独り立ちする弟子の成長を表している。それは、徳重が赤池から受け継ぎ、それを今度は滝野が継承するような、師から弟子へ連綿と受け継がれたバトン、医師の魂を証明するものである点が重要だ。
赤池が倒れ、徳重にとって弟子の真価が問われる場面である。総合診療医の取り組みを描いてきた『19番目のカルテ』は、師と弟子の姿を通して、最後に何を語るだろうか。
富士屋カツヒトによる連載漫画『19番目のカルテ 徳重晃の問診』を原作に、坪田文が脚本を手掛けるヒューマン医療エンターテインメント。松本潤がキャリア30年目にして初となる医師役に挑む。
■放送情報
日曜劇場『19番目のカルテ』
TBS系にて、毎週日曜21:00〜21:54放送
出演:松本潤、小芝風花、新田真剣佑、清水尋也、岡崎体育、池谷のぶえ、本多力、松井遥南、ファーストサマーウイカ、津田寛治、池田成志、生瀬勝久、木村佳乃、田中泯
原作:富士屋カツヒト『19番目のカルテ 徳重晃の問診』(ゼノンコミックス/コアミックス)
脚本:坪田文
プロデューサー:岩崎愛奈
企画:益田千愛
協力プロデューサー:相羽めぐみ
演出:青山貴洋、棚澤孝義、泉正英
編成:吉藤芽衣、髙田脩
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