『あんぱん』に“手嶌治虫”が本格登場 眞栄田郷敦&新田真剣佑が兄弟で漂わせる風格

とうとうNHK連続テレビ小説『あんぱん』に天才漫画家・手嶌治虫(眞栄田郷敦)が本格登場する。嵩(北村匠海)とは第95話の喫茶店で偶然邂逅して以来の対面となるが、嵩が思うように漫画を書けずにいる間にも、手嶌は国民的漫画を次々と世に輩出していた。
嵩自身もいせたくや(大森元貴)とともに制作した楽曲「手のひらを太陽に」が大ヒットを記録したり、八木(妻夫木聡)が作った出版部で初の詩集『愛する歌』を出版したりと、精力的に活動していた。しかし、のぶ(今田美桜)や健太郎(高橋文哉)との会話で「手嶌治虫の漫画はおもしろい」と話題になるたびに、漫画の代表作を生み出していない嵩は悔しい思いを抱いていたことだろう。

誰もがその才能を認める稀代の天才漫画家を演じるのは眞栄田郷敦。弱冠25歳という年齢に見合わない貫禄と落ち着きのある佇まいで、手塚治虫をモデルにした役柄を演じることに違和感を与えない。まさにうってつけのキャスティングと言えるだろう。
眞栄田といえば、北村と共演した映画『東京リベンジャーズ』(2021年)で男気あふれる三ツ谷隆を熱演したことを皮切りに、数々の人気漫画のキャラクターを飄々と演じる姿が記憶に新しい。ドラマ『ゴールデンカムイ』シリーズで演じている尾形百之助も、まるで原作漫画から抜け出してきたかのような風貌と銃剣の構え方で観るものを驚かせていた。
さらに映画『ブルーピリオド』(2024年)では、主人公の矢口八虎をとてつもない熱量と集中力で演じきる。冒頭の八虎は何にも熱中できずに、周りの空気を読みながら学生生活を送っていた。しかし、絵を描くことで生まれた衝動が、やがて心の内側に火を焚きつけていく。徐々に熱を帯びていく八虎のような役柄を演じるとき、眞栄田の底から湧き出る力強さが魅力となって噴出する。だからこそ、温度の低い空虚な役柄も器用に演じることができる彼が感情を高ぶらせて、どんどん熱を帯びていく姿に魅了されてしまうのだ。
そして、眞栄田の芝居が一段と脚光を浴びたのが、冤罪事件の真相とテレビ報道の裏側を巧みに描いた社会波ドラマ『エルピス—希望、あるいは災い—』(2022年/カンテレ・フジテレビ系)の岸本拓朗を演じたことだ。
大洋テレビの若手ディレクターである岸本は、当初、お坊ちゃんでふらふらと頼りない若者だった。しかし、公然と行われる忖度や上からの圧力など、テレビ局が抱える闇と直面。その後、テレビ局を辞めてフリーのジャーナリストとして活動を始めると、最初の頃とは似ても似つかない姿に変貌を遂げる。退廃的な雰囲気と光が失われた眼は、彼が全身全霊で岸本として生きていたからこその変わりようだった。眞栄田は前述した八虎と同じように、何もない人間が熱に浮かされて滾らせていく様子を、情緒の揺らぎを交えながら演じられる役者であることを証明し続けている。

また、実の兄である新田真剣佑も、2025年は国内ドラマで輝きを魅せている。日曜劇場『19番目のカルテ』(TBS系)で演じる外科医の東郷康二郎は、新田の鋭くも優しげな眼差しが役柄に見事にマッチ。総合診療医の徳重(松本潤)に感化されて、少しずつ周囲への対応が変わっていく姿をていねいに表現していた。
第7話では、康二郎が手術を担当したアナウンサー・堀田(津田健次郎)の復帰を祝うテレビ放送を観て、ポーカーフェイスにも小さな喜びを滲ませる。直前に堀田が「長く喋るとまだ少し(声が)かすれる」と話したとき、責任を感じて少し目を伏せる芝居も含めて、康二郎の繊細な心の機微を感じさせる一幕だった。

さらに『ちはやふる-めぐり-』(日本テレビ系)では、映画でも演じた“綿谷新”として『ちはやふる』の世界に舞い戻ってきた。主人公・千早(広瀬すず)の幼なじみである新は10年後、かるた名人として君臨している。あの頃の新の面影を残しながらも、10年の月日を感じさせる余裕のある表情に、新田が積み上げた俳優としてのキャリアの深みを垣間見ることができた。
近年は、Netflixで独占配信されたオリジナルドラマシリーズ『ONE PIECE』のロロノア・ゾロ役など、ハリウッドでも目覚ましい活躍を続けている新田。あらためて、グローバルに活躍する彼のような俳優を国内の映像作品で観られるのは嬉しい限りだ。
夏ドラマでの新田の活躍を目に焼きつけるのはもちろん、『東京リベンジャーズ』で共闘した北村と『あんぱん』で再タッグを組む眞栄田の芝居も見逃せない。漫画家としてはライバルだが、互いに実力を認め合う同志でもある嵩と手嶌。彼らがどのような経緯で出会い、そして、新たな作品を世に生み出すのか。兄弟であるふたりがそれぞれの作品で漂わせる“風格”にも注目したい。
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK





















