二宮和也は“迷う”からこそ“魅せる”ことができる 『8番出口』の繊細な芝居を読み解く

『8番出口』は、基本的に独り言、もしくは「受話器越しの誰か」や、目の前に現れた人に話しかけるシーンのみで構成されている。ゲームが原作のため、登場人物の台詞も、実にたどたどしい。会話というよりも、ほぼ男が「心の内」を吐露していく展開だ。
そして男は、言葉に詰まると「……」という余白を見せる。その部分に、彼がいろんな迷いや葛藤を抱えていることが映し出されていた。
二宮は、クリント・イーストウッドが監督を務めた映画『硫黄島からの手紙』でも、余白の演技を巧みに表現している。作品の中で、二宮が演じる元パン屋の西郷が野崎(松崎悠希)に対し愚痴を吐露するシーンがある。その中で西郷は「砂糖が入っていた頃は……アンパンとか……。カステラとか作って売っていた」と、ぼそりと呟く。言葉の間に、「……」という余白を織り交ぜることで、西郷が「昔の良かった頃」を思い出として懐かしんでいるのが伝わる。その後、西郷は一瞬にして鋭い眼差しを他の兵士に向ける。戦争への不満や愚痴を吐露するシーンは、ついさっきまでパン屋の話をしてきた人とは別人のようにも映る。
僅かなセリフの余白や、目の色を一瞬で変えられる二宮は、1人だけのシーンでも見せ場を作れる。だから、何気ない独り言でも「魅せる」のだ。
二宮が、なぜ心の動きを演じるのが上手いのか。それは彼がYouTubeチャンネルで、日頃から本音や想いを「人に見せる」練習をしているからなのかもしれない。
たとえば、『よにのちゃんねる』の「【VIVANT!!】観てくれた人ありがとうございますの日」の中で、二宮は照れくさそうに「どうしようかな。でもやること決まったら(カメラを)回しま~す!」と、はにかみながら思いを吐露している。時には、「初めてスペースするけど、どうなることやら……」と眉を顰めるなど、普段から「素」の自分を自然体で見せている。
その中で、二宮はさまざまな選択肢に向き合い、「どうしようかな」と迷いながらも、自分なりに決断し、言葉を丁寧に紡いでファンに伝えていく。一歩ずつ前に進む姿には、リアルな迷いと誠実さが滲んでいる。日頃から、迷いや選択のリアルを「誰かに見せる」ことを意識してYouTubeを運営しているからこそ、演技の中でも自然に「迷う姿」を表現できるのかもしれない。

二宮は映画の後半で、ある男の子と遭遇する。男の子について、公式サイトでは紹介されていないが、本作の鍵を握る「重要人物」である。
そして、男はその出会いや、訪れた「大きなピンチ」をきっかけに、ある「選択」をする。その選択は、男にとって幸せなものだったのか。それとも……。そもそも、男は8番出口から脱出できるのか。「迷う男」に感情移入しながら、思う存分「ゲームの世界」を、劇場で楽しんでほしい。
■公開情報
『8番出口』
全国公開中
出演:二宮和也、河内大和、浅沼成、花瀬琴音、小松菜奈
原作:KOTAKE CREATE『8番出口』
監督:川村元気
脚本:平瀬謙太朗、川村元気
音楽:Yasutaka Nakata(CAPSULE)、網守将平
配給:東宝
©2025 映画「8番出口」製作委員会
公式サイト:exit8-movie.toho.co.jp
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公式Instagram:@exit8_movie
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