やなせたかしの言葉は令和の時代にも響く 『あんぱん』を通して描かれる“愛”の救い

やなせたかしの言葉は令和の時代にも響く

 大衆の心をひねらずストレートに書き出すことで、共感を得る。嵩のモデル・やなせたかしは広告の仕事をやっていただけあって広告的な売れ方をしている。本当はもっと高尚なものを目指していたのかもしれないが、彼に向いていたのは大衆向けの作品だった。

 嵩(やなせたかし)の書くものにはわからないという不安がない。むしろ、佳保の言うように自分でも書けるのではないかという気安さすら感じる(実際は誰でもできるわけではなく考え抜かれているのだと思うが)。

 大衆は、自分がわからない、ついていけていないという不安を感じることを恐れる。自分にもわかって、なんなら書けそうなワードを誰もが支持している安心にぬくぬくと埋もれて生きていく。それでいいのか。だが、嵩(やなせたかし)の詩の救いは、それは破壊や争いにつながるものではなく、すべてが「愛」であることだ。

 誰もが、愛することの喜びを噛みしめることで世界は平穏であり続けられるのではないか。のぶの誕生日に贈られた詩集『愛する歌』でのぶが読んでいたのは、〈ちいさなてのひらでもしあわせはつかめる〉という歌詞だった。また、大ヒットした「手のひらを太陽に」はどんな小さな生き物でも生きていて、みんな友達だと歌う生き物賛歌だ。

 日本が好景気だった昭和40年代前半、やなせたかしが描き続けた、ちょっと冴えなくても生きている価値があり、小さなしあわせはつかめるというメッセージ、こねくりまわさず教養をひけらかさず、誰でも書けそうなシンプルな表現が支持され、『やさしいライオン』で描いたバッドエンドのあとのメルヘンな展開。それらが令和のいまこそ刺さるのかもしれない。

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK

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