『あんぱん』今田美桜×河合優実×原菜乃華“実年齢以上”の説得力 三姉妹が更新した朝ドラ像

『あんぱん』三姉妹の“実年齢以上”の説得力

 NHK連続テレビ小説『あんぱん』は、第22週に入り物語の舞台は昭和40年代へ。戦後の混乱を抜け、高度経済成長期の活気に包まれた時代に突入した。人々が未来への希望を見出す一方で、戦争の爪痕や生活の不安は依然として残っている時代でもある。そんな時代を生きる人々の姿をもっとも鮮やかに映し出しているのが、朝田三姉妹ののぶ(今田美桜)、蘭子(河合優実)、メイコ(原菜乃華)だ。

 子どもから大人へ、そして母や働く女性へと成長していく三姉妹。実際の俳優たちは20代前半から後半に差しかかる年齢だが、現在の劇中では30代から40代の役柄を担っている。その年齢差をどう乗り越え、説得力のある演技へと昇華しているのか。本稿では、大人になった三姉妹の現在地に迫ってみたい。

 長女ののぶは、土佐弁を操る快活な性格から出発し、戦後の混乱を経てジャーナリストとして歩み始めた。30代を超えた彼女は、かつての天真爛漫さを残しつつも、社会や家庭の責任を背負う存在へと変化している。

 今田はそんなのぶの持つ二面性を鮮やかに映し出す。若々しさの残る顔立ちに、視線の重さや言葉選びの確かさを積み重ねることで、実年齢を超えた説得力を生んでいる。清廉で無垢な“朝ドラヒロイン”像から離れ、人間味と迷いを抱えたヒロインを成立させたことで、朝ドラにおけるヒロイン像の幅を広げたとも言えるだろう。

 北村匠海をはじめ共演者が「今田さん以外ののぶは考えられない」と語るのも納得できる。今田の演技は、30代、40代の女性が直面する葛藤を自らの経験と重ね合わせ、国民的ドラマの中に新しいヒロイン像を刻み込んでいる。

 次女の蘭子は、家族を支えるしっかり者でありながら、心の奥に情熱と繊細さを抱えた存在だ。大人になった彼女は、戦争で愛する人を失い、その後の人生を一人で切り開いていく。

 河合が見せた演技で印象に残っているのは、豪(細田佳央太)の出征を見送る場面、そして戦死の報せを受けた場面である。言葉少なにただ佇む姿から、痛みや孤独、そして生き抜く覚悟が伝わる。20代半ばでありながら、30代から40代の女性の重みを表現できるのは、感情をただ語るのではなく滲ませる技術ゆえだろう。

 後年の八木(妻夫木聡)とのやりとりでは、近年の朝ドラにはあまり見られない大人の色気が漂っていた。河合の演技には、経験を積んだ人間ならではの抑制や静けさが宿り、画面に独特の厚みを生んでいる。映画やドラマで“昭和を背負う”存在感を見せてきた彼女にとって、蘭子はその資質を最も純度高く示す役柄だったと言える。

 三女のメイコは、物語序盤では天真爛漫な“末っ子らしさ”で場を和ませる存在だった。しかし大人になった彼女は結婚し母となり、家族を支える役割へと変化している。その転換を自然体で描き出せるのは、原の大きな強みだ。

 メイコの存在感を支えたのは、土佐弁を自然に操りながら、成長の段階ごとに役の内面を変化させていった点にある。無邪気に歌い、姉たちに甘えていた少女が、次第に母としての落ち着きを備えていく過程は、演技的な無理を感じさせず、まるで実際に年月を経たかのように筆者には映った。その説得力は、単なる“愛されキャラ”を超えた幅の広さを示している。末っ子の清涼剤でありながら、一人の女性の人生を描き切ったことで、原は自身のキャリアに確かな地平を拓いていくことだろう。

 『あんぱん』における三姉妹の現在地を振り返ると、共通して浮かび上がるのは実年齢を超えた説得力である。今田は葛藤を抱えるヒロイン像を刷新し、河合は沈黙の中に成熟を宿し、原は方言と自然体の演技で母への変化を描いた。それぞれ異なるアプローチを取りながらも、三人は30代、40代の女性の人生をリアルに成立させた。そして何より、三姉妹として並んだときの化学反応が作品を支えている。撮影現場で築かれた信頼や親密さがスクリーンに滲み出て、家族の物語に奥行きを与えているように思う。

 『あんぱん』は、一人のヒロインを中心に描く朝ドラの定石を超え、三姉妹の群像劇として多層的な共感を生んでいる点は興味深い。その核心にあったのは、若手女優たちが自らの年齢を飛び越え、人生の厚みを演じ切った表現力にほかならない。彼女たちが今後どのような作品でキャリアを広げていくのか。三姉妹としての経験を糧に、それぞれの道でさらなる飛躍を遂げる姿を期待したい。

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK

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