『アイの歌声を聴かせて』は“AI全盛”の今こそ刺さる! 夏休みに味わいたい“幸せ”の連鎖

AIやアンドロイドをテーマにしたアニメは、SFの王道として昔から数多く作られてきたが、ここ数年でその存在感は一段と増している。チャットGPTに相談したり、AIによる自動生成を体験したりと、誰もが身近にAIと関わるようになった今、AIは空想の産物ではなく日常の中の“隣にいる存在”として意識される時代に入ったのだろう。
そんな時代にあって改めて注目したいのが、8月30日にNHK Eテレで再放送される劇場アニメ『アイの歌声を聴かせて』である。2021年に公開された本作は、AIを題材にしながらも一風変わった切り口を見せてくれるからだ。

物語の舞台は景部高等学校。転入してきた謎の美少女・シオンは、孤立しがちなクラスメイト・サトミの前で突然歌い出し、思いもよらない方法で“幸せ”を実現しようと奔走する。しかし彼女の正体は、実験段階のAI。やがてその秘密を知ってしまったサトミとクラスメイトたちは、振り回されながらもシオンの真っ直ぐな姿に心を動かされていく。
こうした序盤の展開では、観客の多くがシオンに置いていかれる感覚を味わうだろう。それほどにシオンの行動はどれも突拍子なく、クラスメイト同様に視聴者も「どう受け止めればいいのか」と戸惑ってしまう。けれど、その破天荒さがシオンの個性であり、その突き抜けた存在感がサトミやクラスメイトたちを変えていく過程こそ、本作の核となる魅力でもある。

一般的にAIを描いたアニメ作品といえば、『PSYCHO-PASS サイコパス』や『AIの遺電子』、『ユア・フォルマ』などのように、社会とAI(またはアンドロイド)の共生や倫理という大きなテーマを据えたものが多い。だが『アイの歌声を聴かせて』はあくまで人の内側に焦点を当て、サトミの心情や人間関係の変化を丁寧に積み上げていく。いわば青春群像劇の温度をまとったAI作品、と言えるだろう。
その意味では、本作と同じく2021年に話題を呼んだ、歌姫AIが登場するアニメ『Vivy -Fluorite Eye's Song-』と比較すると分かりやすい。『Vivy -Fluorite Eye's Song-』が壮大なスケールで人類の未来を描いたのに対し、『アイの歌声を聴かせて』は学校という閉じられた空間の中で、人と人のつながりを瑞々しく描き出しているからだ。本作の共同脚本を手がけたのは『コードギアス』や『SK∞ エスケーエイト』の大河内一楼。AIを題材にしながらも、その作品ならでは複雑な世界観設定にとどまらずキャラクターの心の機微を深く描いているのも、納得がいく。

もっとも、公開当時は興行成績こそ控えめだった本作だが、口コミを通じて支持が広がり、一部の劇場では異例の上映回数増加が実現したという背景もある。首都圏では満席に近い回が続出するなど、熱量の高いファンを生み出していったことからも、本作がいかに人の心を動かす力を持っていたかがうかがえるのではないか。




















