『ハンドメイズ・テイル』は現代社会の写し鏡 翻訳家・英文学者が最終章のみどころ明かす

『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』ファイナルシーズン配信を記念して、トークイベント「『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』の世界 ~観てから読むか、読んでから観るか~」が8月27日に開催された。
『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』は、マーガレット・アトウッドによるディストピア小説『侍女の物語』を原作とするドラマ作品。環境汚染により出生率が激減した世界で、アメリカではクーデターにより“全体主義国家”ギレアドが誕生。女性たちは支配階級の子供を産むための“侍女”になることが法律で制定されてしまう。絶望的なディストピアの中で主人公・ジューン(エリザベス・モス)たち侍女の“抵抗”が描かれていく。
本イベントに登壇したのは翻訳家・鴻巣友季子と、上智大学外国語学部教授・小川公代、小説家・白尾悠(MC)。鴻巣は原作『侍女の物語』の続編となる『誓願』の邦訳を手掛け、小川は同書に解説文を寄せている。
『侍女の物語』が描いてきたディストピア社会に「現実が追いついてしまった」と評する2人は『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』ファイナルシーズンをどのように捉えたのか。激論を交わした。
「赤は重要なシンボルカラー」

ELISABETH MOSS
イベントが始まると、鴻巣と小川、白尾は作中の“侍女”を模した姿で登場。赤いローブに“侍女の翼”を頭に被った小川は「こんなふうに見えるんですね」と一言。鴻巣も「この姿で私語を発していいのか」と冗談混じりにコメントし、穏やかな雰囲気でトークが始まった。
しかし対談が始まると、ローブの“赤色”の比喩について詳細な解説がなされ、雰囲気は一変。赤色は、あるときは怒りであったり、映画『教皇選挙』などでみられるような高位の人物を表したり、不義の愛、魔女の火炙りなどを意味したりするという。
小川は本作において「赤は重要なシンボルカラー」だと語る。作中で主人公・ジューンは“ジューン・オブフレッド”と名付けられており、これは支配階級である「フレッドの所有物(Offred=Of Fred)」とのダブルミーニングになっている。小川はここに“red(fRED)”の文字を見出し、支配階級の名の中に抵抗の怒りを示す“赤”が含まれていた、この両義性を「憎い演出」だと語った。
『侍女の物語』原作誕生の背景

THE HANDMAID’S TALE
『侍女の物語』が刊行されたのは1985年。鴻巣は当時を思い返し「ファンタジーのような物語」として読んだという。実際、当時の書評では「アンリアル」だとして酷評されていたようだ。
小川はその約10年後に本書を手に取ったというが、鴻巣によれば「この10年の違いは大きい」。時代が下るにつれて読者の当事者性が増している、あるいはアトウッドが描いた世界に現実が近づいているという。
2025年の今になって本作が切実なものとして受け取られていることは、ある種のアイロニーであると2人は語る。1980年代に“民主主義国家”アメリカを全体主義の舞台にしたことは、当時は非現実的なものとして受け入れられなかったが、アトウッドはこの時期からアメリカが民主主義国家ではなくなっていく予感を抱いていたのではないかと鴻巣は推察した。小川もトランプ政権への批判意識を表明しつつこれに同意し、本作の持つ現代性を改めて指摘した。
また『侍女の物語』が40年も前に誕生しえた理由について、「アトウッドがカナダ出身だからではないか」とも語られた。カナダでは英語と同じかそれ以上にフランス語が話される地域であることや、隣国アメリカに対して相対的に弱小国であることなどの文化条件から、“英語”が持つグローバルな特権性を相対化する視点が醸成されたのだと推察。それが本作で描かれる“言語による抵抗”に結びついたのではないかとも。





















