ついに公開! 『不思議の国でアリスと』は忘れていた“好き”と自分を思い出させてくれる

150年も世界中で読み継がれ、愛され続けてきたルイス・キャロルの名作小説を日本で初めて劇場アニメーション化した『不思議の国でアリスと -Dive in Wonderland-』が8月29日に公開された。
本作は、単なる『不思議の国のアリス』のアニメ化でない点が面白い。主人公のりせは就活生として日々、焦燥感に追われて生きている。大学の友達は就職先が決まったり、決まってなくても自分なりのペースがあったりする。しかし彼女は失敗しないように空気を読み、“周りと同じようにしているはずなのに物事がなぜか上手くいかない”ことを嘆くのだ。そんな彼女がある日、亡き祖母が遺した招待状に導かれ、“不思議の国”へと入っていく。
そんな筋書きからもすでに感じられるように、本作は就活生の年頃はもちろん大人が観るとなかなかに響くテーマをはらんだ作品だ。
P.A.WORKS作品だからこその世界観

本作を手がけるP.A.WORKSは、数々の話題作を世に出してきた。近年では、実写化もされた『パリピ孔明』の成功が記憶に新しい。そんなP.A.WORKSだが、アニメ会社としての最大の魅力であり強みは、なんといっても“オリジナル企画”である。『花咲くいろは』や『SHIROBAKO』、『サクラクエスト』など原作なしのオリジナル作品における世界観の構築が上手く、特に青春や仕事、成長の物語を描くことを得意としている。また、女性キャラクターを主人公においた作品も多い。“お仕事もの”に定評があるスタジオだが、青春群像劇を描いたとしても、彼女たちの苦しさや葛藤、仲間との絆がリアルに描かれている点が大人にも刺さる。だからこそ、『不思議の国のアリス』を原作のままアニメ化するよりも現代的に解釈し、いまの若い女性が直面する困難と迷いをオリジナルの要素に投影するという本作の判断はとてもP.A.WORKSらしいように感じる。

とにかく作品の中で目を惹くのがキャラクターデザインやコンセプトデザインだ。りせやアリスをはじめ、本作の登場キャラクターのデザインが本当にかわいい。担当したのはP.A.WORKS作品に欠かせない川面恒介と、『天穂のサクナヒメ』でキャラクターデザインを担当した藤嶋未央。原案に髙田友美、鈴木純、木野花ヒランコが参加している。彼らキャラクター原案と刺激し合って作られたのがコンセプトデザイン。背景や不思議の国のヴィジュアルなど、とにかく独創的な世界が広がっている本作。手がけたのは、長年『ファイナルファンタジー』シリーズにアートとして参加していた新井清志だ。劇中に登場するハートの女王の城など、ゲームに出てきそうなデザインが彼らしく、他にもチェス盤が浮くようなゲーム性の高いデザインや仕掛けが本作には豊富である。視覚的に子どもも楽しめる要素が多いなか、その内容は実のところ、りせと同じような就活生……いや、大人の胸に響くものかもしれない。




















