『ダンダダン』音楽を“可視化”させたバトル演出の凄さ オカルンの成長をリズムが導く

オカルンの動きも、これまでの戦いとは明らかに異なっていた。第7話の「夜空バレー」が見せた流麗な舞踏、第15話「ゆるさねえぜ」で炸裂した怒りの連続打撃。そのどちらとも違い、第20話のオカルンは軽やかで不規則に跳ねる。攻撃をかわすのではなく、音楽の流れに身を預けて動く。そこには、不器用で臆病な彼が新たに獲得した“しなやかさ”があった。力任せではなく、調和することで敵を超える。彼の成長は拳ではなくリズムで示された。

この挑戦は、物語的にも大きな意味を持つ。オカルンはこれまで、呪いの力や怒りに突き動かされて戦ってきた。だが今回は、モモを守りたいという思いをリズムに変換し、身体の奥底から自然に湧き出す動きとして表現した。力よりも感覚、恐怖よりも調和。戦いの様式が変わることで、キャラクターの内面の段階的な成長が鮮やかに浮かび上がる。
細部の遊び心も際立っていた。線は一定ではなく揺れ、背景の色彩は曲調に応じて変調する。カメラは音に合わせてリズムを刻むように動き、視覚と聴覚が同じリズムを共有する。これらは、従来のバトルアニメの見せ場的作画とは一線を画し、映像全体をひとつの楽曲のように組み立てる試みだったと言えるだろう。
結果として、この戦闘は「力と力のぶつかり合い」ではなく、「概念と概念のぶつかり合い」として描かれている。作曲家たちは音符という抽象的な武器で攻め、オカルンはリズムという抽象的な力でそれを受け流す。ここにはアニメーションならではの表現があり、ただ原作を映像化したのではなく、アニメだからこそ生み出せる独自の解釈が提示されているのだ。

『ダンダダン』は、異星人や怪異といった荒唐無稽な存在を相手にしながらも、青春の不器用さや成長の瞬間を真正面から描いてきた。第20話はその路線をさらに拡張し、音楽という抽象概念すら青春の成長譚に組み込んでみせた。リズムに身を委ねるオカルンの姿は、不器用でありながらも確かに前へと進む若者の姿そのものだ。
力でねじ伏せるのではなく、音に合わせて体を弾ませる。それが新しい強さとして描かれた今回のエピソードは、サイエンスSARUの持ち味と『ダンダダン』の物語が重なり合った瞬間だった。そのすべてを結びつけた第20話は、『ダンダダン』という作品がアニメーションである必然を証明する回となった。
■放送・配信情報
TVアニメ『ダンダダン』
第1期:各配信サイトにて全話順次配信中
第2期:MBS/TBS系スーパーアニメイズム TURBO枠にて、毎週木曜0:26~全国同時放送
キャスト:若山詩音(モモ/綾瀬桃)、花江夏樹(オカルン/高倉健)、水樹奈々(星子)、佐倉綾音(アイラ/白鳥愛羅)、石川界人(ジジ/円城寺仁)、田中真弓(ターボババア)、中井和哉(セルポ星人)、大友龍三郎(フラットウッズモンスター)、井上喜久子(アクロバティックさらさら)、関智一(ドーバーデーモン)、杉田智和(太郎)、平野文(花)、磯辺万沙子(鬼頭ナキ)、田村睦心(邪視)
原作:龍幸伸(集英社『少年ジャンプ+』連載)
監督:山代風我
シリーズ構成・脚本:瀬古浩司
音楽:牛尾憲輔
キャラクターデザイン:恩田尚之
宇宙人・妖怪デザイン:亀田祥倫
アニメーション制作:サイエンスSARU
第1期オープニングテーマ:Creepy Nuts「オトノケ」
第1期エンディングテーマ:ずっと真夜中でいいのに。「TAIDADA」
©龍幸伸/集英社・ダンダダン製作委員会
公式サイト:https://anime-dandadan.com/
公式X(旧Twitter):@anime_dandadan























