“太一”野村周平は『ちはやふる』の裏主人公 映画シリーズが描いた“迷い”と軌跡を総括

『ちはやふる』“太一”野村周平の活躍

 大事な東京都予選を前に、彼はかるた部を退部する。彼は、名人・周防久志に近づく。周防は一度手を合わせただけで、太一の迷いを見抜く。部を辞めたことも知っており、そのことについても言及する。「ずっと辞める理由を探してた。偉いなーって思ってたよ。かるた好きに囲まれて、すごくがんばって、キツかったよね。いいんじゃない?」。

 周防や詩暢、あるいは千早や原田先生らにとってのかるたは、「それしかない」人間にとっての聖域であり、と同時に、修羅の道でもある。全部を懸けられない、全てを差し出せない人間は、こちらには来ないほうがいい。同じぐらいの熱量のお友達同士で、楽しく趣味としてやっていればいい。お前は、どっち側なんだ?

 太一は、周防の押しかけ弟子となる。

 周防の所属する東大かるた部に毎日通う。強すぎる周防の相手は誰もやりたがらないため、太一は延々と周防と対戦し、ボコボコにされ続ける。かるた選手にとって一番大切な耳の良さを守るため、周防は普段は耳栓をして行動している。そして耳栓でも防ぎきれない騒音に対しては、耳をふさぐ。太一もそれにならう。太一も、“あちら側”の人間になっていく。

 全国大会の日、太一は周防のアルバイトである予備校講師のアシスタントを務めている。そんな太一を見て、周防は大勢の生徒の前で太一にだけ語りかける。「本当に強い人間は、周りをも強くする。後進には希望を。相手には敬意を。仲間には勇気を。……君は、こんなところで何をしているの?」。

 全国大会団体戦決勝にギリギリ間に合った太一は、かるたにおいても、恋においても、長年のライバルである綿谷新と対戦する。このシーンが、『ちはやふる』3部作のクライマックスとなる。本シリーズの主人公は綾瀬千早だ。常に前向きで、かるたに対して一片の迷いもない千早は、正しい主人公だと言えるだろう。だが、観ている人間が感情移入してしまうのは、弱い人間だ。太一は、弱い。シリーズを通して、常に迷い、もがき、時には心も折れる。だからこそ、同じく弱さを抱えているであろう大多数の視聴者は、太一を応援してしまう。

 迷いを断ち切り、強くなり、大人になった太一が、あのとき原田先生に言われた言葉を、誰かに伝えるときが来た。あの頃の自分自身のように、弱くて迷いのある後進を、導くときが来た。原田先生のように。周防久志のように。太一は、誰を導くのだろう。誰に、希望と強さを与えるのだろうか。

『ちはやふる-めぐり-』の画像

ちはやふる-めぐり-

2016年から2018年にかけて公開された映画『ちはやふる』シリーズの10年後の世界を舞台にした作品。廃部の危機にある梅園高校・競技かるた部の藍沢めぐるが、顧問として赴任してきた大江奏と出会い、成長していく。

■放送情報
『ちはやふる-めぐり-』
日本テレビ系にて毎週水曜22:00〜放送
出演:當真あみ、原菜乃華、齋藤潤、藤原大祐、山時聡真、大西利空、嵐莉菜、坂元愛登、高村佳偉人、橘優輝、石川雷蔵、瀬戸琴楓、髙橋佑大朗、藤枝喜輝、大友一生、漆山拓実、上白石萌音、内田有紀、要潤、榎本司、富田靖子、高橋努、波岡一喜、髙嶋政宏
ショーランナー:小泉徳宏
監督:藤田直哉、本田大介、松本千晶、吉田和弘
脚本:モノガタリラボ(小坂志宝、本田大介、松本千晶)、金子鈴幸
プロデューサー:榊原真由子、巣立恭平、中村薫、平田光一
企画・プロデューサー:北島直明
チーフプロデューサー:松本京子
音楽:横山克
主題歌:Perfume「巡ループ」(UNIVERSAL MUSIC LLC)
制作協力:ROBOT、ウインズモーメント
©日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/chihayafuru-meguri/
公式X(旧Twitter):https://x.com/chihaya_koshiki

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