『ぼくほし』禁断の関係を通して描いたもの あったかもしれないもう一つの“未来”

『僕達はまだその星の校則を知らない』(カンテレ・フジテレビ系)第7話では、生徒と教師のタブーに触れた。
夏合宿以来、珠々(堀田真由)を意識するようになった健治(磯村勇斗)。ある日、健治が保健室にいると、2年の島田(北里琉)が質問してきた。質問は2つあり、「結婚は何歳からできるのか?」という質問に、健治は民法改正で成年年齢が引き下げられ、18歳になれば婚姻が可能になると答えた。もう一つは、質問の体裁を借りた相談だった。
「先生を好きになるのは罪ですか?」
生徒と教師の恋愛は、学園ドラマで頻出の題材だ。健治と珠々のピュアすぎる交流を目にした直後になまなましい恋愛模様を突き付けられると、そのギャップに戸惑う。けれども、事態はさらに複雑な様相を呈した。
島田が好意を寄せていたのは、3年の学年主任で数学教師の巌谷(淵上泰史)。濱ソラリス高校が共学になる前の1年のときの担任で、合併後に保健室登校を続ける島田を気にかけていた。2人の関係が変化したのは夏休み。精神的に不安定だった島田の母親が自殺をほのめかし、家の中に居場所のない島田は「死にたい」と巌谷に助けを求めにきた。その後、SNSの連絡先を交換したことで、2人の距離が縮まる。身体的な接触を求めたのは島田からで、巌谷にキスし、巌谷も内心ではそれを拒まなかった。
むしろ潔癖なくらい生徒と一線を引いていた巌谷が、青少年淫行で罪を着るのは理不尽という考えもあるし、一方で教師の責任の重さから、相応の罪を負うべきという考えもある。巌谷の話をじっくり聞いた健治は「一番のミスは一瞬でも未成年に恋をしたこと」と理解した。もちろん、そのこと自体は罪に問われない。
けれども、巌谷は学校を辞める。実質的な解雇であり、理事長の尾碕(稲垣吾郎)は、学校の信頼を失墜したことを理由に挙げる。ここまで第7話を観て、教師が置かれた立場の弱さや、学校経営の難しさを痛感した。けれども、かんじんの島田と巌谷の考えは放置されたままで、2人の意向は顧みられない。
それでも表面的には波風を立てずに、一人の教師の退職は既成事実化され、何事もなかったかのように日々は過ぎ去る。生徒たちは真相を知らされないまま、心に蓋をして眼前の課題をこなす。旧来の学園ドラマなら、巌谷と島田のその後を描いたかもしれないが、『ぼくほし』はそれをしない。そして、その可能性自体を否定した。
2人の関係が断ち切られたことでストーリーに生じた断線。それは、既視感のある学園ドラマのプロットを変更する。だが、それだけではない。
生徒と教師の恋愛を「禁断の関係」とことさらに強調するのは、そこにロマンティックな感情の発露を見いだすからだ。葛藤を乗り越えて結ばれる過程にドラマがあると考えれば、禁断の恋はドラマの題材になる。島田から巌谷に向けられた気持ちは本物で、巌谷の島田への思いは一人の生徒に対するものを超えて、愛情と呼んでいいものだった。それを許さない状況、学校と社会の緊張関係に疑問を投げかけている、という見立ても可能ではある。
一方で、教訓を引き出したり、正しさを明言せず、答えのない問いかけにとどめたのは、それが作り手の意図するところだからではないだろうか。生徒から、巌谷が辞めた理由を聞かれた健治は、詳細を伏せた上で「あなた方だけでも信じてあげてほしい」と言う。
ルール/規範は時代によって変わる。作中と私たちが生きる現代で、生徒と教師の恋愛はタブーとされ、教師が全責任を負う。しかし、未来はわからない。もしかすると、生徒も個人として尊重され、恋愛において成熟した大人として扱われる時代が来るかもしれない。その逆もありえる。未来は空白だから、答えとなるルールを未来を生きる人に託した、と考えることができる。
大事なのは、ロマンティックな要素を肯定するか否かではなく、未来の可能性を否定しないことだ。その上で、渦中の2人に注がれる眼差しは優しさに満ちていた。巌谷が島田にかけた「親も、僕のことも、全部見返すような大人になれ」は、教師である巌谷ができる最後の仕事であり、言葉とは裏腹に、学園ドラマの本作において、あったかもしれないもう一つの未来を示唆していた。
何事にも臆病で不器用な主人公が、共学化で揺れる私立高校にスクールロイヤー(学校弁護士)として派遣されることになり、法律や校則では簡単に解決できない若者たちの青春に、必死に向き合っていく学園ヒューマンドラマ。
■放送情報
『僕達はまだその星の校則を知らない』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00~放送
出演:磯村勇斗、堀田真由、平岩紙、市川実和子、日高由起刀、南琴奈、日向亘、中野有紗、月島琉衣、近藤華、越山敬達、菊地姫奈、のせりん、北里琉、栄莉弥、淵上泰史、許豊凡(INI)、坂井真紀、尾美としのり、木野花、光石研、稲垣吾郎
脚本:大森美香
音楽:Benjamin Bedoussac
主題歌:ヨルシカ「修羅」(Polydor Records)
監督:山口健人、高橋名月、稲留武
プロデューサー:岡光寛子(カンテレ)、白石裕菜(ホリプロ)
制作協力:ホリプロ
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
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