『近畿地方のある場所について』映像化と考察要素に潜む社会風刺 巧みな演出を紐解く

映画化ではなく、派生作品として観るのが正解?

今作の原作は小説投稿サイト「カクヨム」に投稿されたWeb小説であるが、実は単行本、文庫本とでは大きく設定や視点が異なる。そして映画でも内容がかなり変化している。それらをふまえると、映画化というよりも、派生作品という表現のほうが正しいのではないだろうか。
単純に追加要素を加えながら、ブラッシュアップしていったようにも捉えられるかもしれないが、その経緯を民話や童話、都市伝説などと形を変えて伝わっていく過程、つまり伝達ゲームの食い違いのようなものが表現されているように見えるのも、メタ的なトータルパッケージに思える。

白石監督らしさが良くも悪くも大きく反映されていることにおいても、解釈による違いによって生まれた新たなもの。原作と映画版を比較することあったとしても、どちらが良いかを比べる行為はナンセンスなのかもしれない。なぜなら別ものであり、その起源こそが重要なのだから。
所々に不明確な部分を残しているのも意図的で、考察されるという行為までもがセットになっているのではないだろうか。またそこから、様々な解釈の「近畿地方のある場所について」が拡散されることで、解像度が増すようで、実は離れていくようでもある。
不明確なものの集合体のような現実世界で、限られた思考の人間という生き物が正解を導き出すことは、いかに困難であるか、そんな社会風刺? 人間風刺? 的な側面もチラつかせてくるのは見事。まんまと引き込まれてしまった。
■公開情報
『近畿地方のある場所について』
全国公開中
出演:菅野美穂、赤楚衛二
監督:白石晃士
脚本:大石哲也、白石晃士
脚本協力:背筋
原作:『近畿地方のある場所について』(著者・背筋/KADOKAWA)
音楽:ゲイリー芦屋、重盛康平
主題歌:椎名林檎「白日のもと」(EMI Records/UNIVERSAL MUSIC)
配給:ワーナー・ブラザース映画
©2025「近畿地方のある場所について」製作委員会
公式サイト:http://kinki-movie.jp/
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