『あんぱん』大森元貴、『エール』野田洋次郎ら 朝ドラが“ミュージシャン”を起用する理由

そしてもう一つ特筆すべきは、『ひよっこ』(2017年度前期)での配役だ。みね子(有村架純)の叔父・宗男を演じた峯田和伸は、俳優としてのキャリアをさらに広げただけでなく、銀杏BOYZとしての音楽活動にも弾みをつけた。さらに、久坂早苗を演じたシシド・カフカ、彼女の恋人役を務めたTHE COLLECTORSの古市コータロー、そして柏木ヤスハルを演じた古舘佑太郎と、主要人物の周囲を固めるキャラクターに次々とミュージシャンが起用された。これは脚本家・岡田惠和の音楽的素養と趣向が反映されたキャスティングであり、朝ドラが音楽と物語の親和性を作品全体に浸透させた代表例として記憶されている。
峯田和伸にスポット当てた『ひよっこ』、なぜ最高視聴率に? 「笑って生きる」の深い意味
このところ、『ひよっこ』の視聴率が連日の20%超え、しかも7月4日に自己最高の21.4%をたたき出して話題になっている。 7…朝ドラは出演だけでなく、主題歌という形でもアーティストと強固な結びつきを築いてきた。DREAMS COME TRUEの「晴れたらいいね」(『ひらり』/1992年度後期)、中島みゆきの「麦の唄」(『マッサン』/2014年度後期)、桑田佳祐の「若い広場」(『ひよっこ』/2017年度前期)はいずれも、作品とともに国民的な知名度を得た。こうした主題歌の成功体験が、やがてアーティストをキャスティングする流れに繋がっていったのは間違いない。またHYやMr.Childrenのように、当時の最新ポップスを響かせた例も印象深い。HYの温かいバラードは沖縄を舞台にした作品と呼応し、Mr.Childrenの「ヒカリノアトリエ」は戦後の女性たちの奮闘に寄り添う光を与えた。こうした“音楽と物語の共鳴”が、朝ドラの普遍性を支えてきたのだ。

大森の出演は、星野源のように主題歌と出演を兼ねるわけでも、ピエール瀧のように名脇役として場を支えるわけでもない。物語の核心を担い、かつ現役のトップアーティストとしての声と身体をそのまま持ち込む点に新しさがある。初登場からアドリブを交え、熱量でキャラクターを生きる姿は、音楽家ならではの表現の力を証明している。この挑戦から見えるのは、アーティストが朝ドラで果たす役割が多様になり、物語を動かす存在になっているということだ。朝ドラにおけるアーティストの活躍は、主題歌から出演へ、そして物語の核心へと歩みを進めてきた。大森は、その最新の事例であり、音楽家が俳優として新たな表現領域を切り拓く姿を体現している。
アーティストが演じることは、もはや話題作りではなく、作品に新しい奥行きをもたらす挑戦となった。『あんぱん』の大森元貴は、その可能性を証明した最初の一歩であり、朝ドラの新しい未来を切り開いた存在として記憶されるだろう。
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK






















