『着せ恋』五条くんが“スパダリ”無双中 現代ラブコメをめぐる男性性&主人公造形とは?

『着せ恋』五条くんが“スパダリ”無双中

「CloverWorks nights」の魔力、あるいは「青春ラブコメ」の輪郭について

 『青春ブタ野郎はサンタクロースの夢を見ない(以下、青ブタ)』、『その着せ替え人形は恋をする(以下、着せ恋)』、『薫る花は凛と咲く(以下、薫る花)』……この毎週土曜夜に連続で放送される3作品は、どれもCloverWorks制作であり、かつ「青春ラブコメ」の様相を呈している。事実、この3作品はひとつの同じジャンルとして考えられ、「CloverWorks nights」と自ら銘打つように一定程度共通の視聴者が連続して視聴していると考えてよいだろう。

 しかしながら実際にこの3作を並べてみると(筆者自身、時間のあるときは可能な限りリアルタイムで連続視聴するように努めているのだが)、「青春ラブコメ」ということばがいかに幅広い作品を包含しているかがよくわかる。裏を返せば、これらの作品が全て同程度に好きだという視聴者はそこまで多くないように思う(ちなみに、筆者は『薫る花』が一番好きだ)。そこでここでは、それぞれの作品がどのように異なっているのかという点について、主人公の在りかたの違いから少し考えてみたい。

『着せ恋』『青ブタ』の主人公造形の違い

 一般的にこの3作の中でもっとも人気のある作品は『着せ恋』だろう。本作は第1期が同時期に放送された『明日ちゃんのセーラー服』(2022年)とともにそのアニメーションとしての質の高さから一躍CloverWorksを人気スタジオに押し上げた立役者でもある。本作が青春ラブコメとしてここまで幅広い人気を獲得しえたのは、一方にヒロイン・海夢の魅力がありつつも、やはり主人公・新菜の徹底された「無害さ」が他方にある。彼が少なくともアニメ化されている部分において基本的に受動的である(もちろんそれは、ある程度雛人形をめぐるトラウマに起因している)ことは知られているとおりだ。

『その着せ替え人形は恋をする』Season2©福田晋一/SQUARE ENIX・アニメ「着せ恋」製作委員会

 新菜は海夢のコスプレ衣装をかなりのクオリティで製作し、さらにそのためにはコンテンツを海夢と語り合えるほどつぶさに視聴する。そして風邪のときは看病し、料理を振る舞う……言ってしまえばかなりの「スパダリ」なのである。重要なのは、それほどまでに海夢の世話を焼くにもかかわらず、その自己肯定感の低さから海夢に対する好意や欲望を自分の中で否定していることだ。その意味で彼は常にヒロインに……さらに言えば女性に害を与えない、そしてその上で魅力的な主人公であると言える。もちろんそれは全くの無害というわけではない。第11話の「リズきゅん」の撮影会のことを思い出せば、彼はたしかに海夢に対しての欲望を持っている。重要なのはそれを徹底的に抑圧し、隠し通しているということだろう。それゆえに彼はきわめて誠実かつ無害な主人公として成り立っているし、それが『着せ恋』が幅広い人気を獲得する要因にもなっている。

アニメ「青春ブタ野郎はサンタクロースの夢を見ない」ノンクレジットオープニング映像 | Conton Candy「スノウドロップ」

 これに対置できるのが『青ブタ』の主人公・咲太だろう。彼は交際相手の麻衣にしばしば(冗談ではあるが)見返りを求め、あるいは悩みを抱える少女たちに(彼女たちが求めているかどうかに関わらず)接しようとする。しばしば咲太が(タイトルの通り)「ブタ野郎」と冗談めかしてヒロインたちに言われることからも明らかだが、彼は新菜とは反対にヒロインたちに害をなす可能性のある存在として描かれる。ただしそれは少なからず自虐的な咲太自身に対する態度が前提となっている。彼の「有害さ」はある程度自覚的にやっているものだし、あえてヒールを貫くその姿勢には彼の美学が宿っている。

 彼のニヒルな態度も中学時代のトラウマに起因するもののはずだが、やはりそこには新菜とは異なるある種の有害さ……ヒロインたちに一定程度信頼されつつも気持ち悪がられることによってコミュニケーションを成立させようとする屈折した一貫性を見て取りたくなる(さらに言えば、筆者は新菜の自己肯定感が低い割に自身の行動が有害性を招く可能性を考慮していないようにも感じてしまい、咲太の姿勢のほうが理解できる気がする)。とはいえ、咲太のその姿勢がある程度視聴者を選別してしまうのもまた事実だろう。これは「ライトノベル」というメディアの主人公たちに古くから見られる共通点でもあり、それが咲太にも受け継がれているように見受けられる。

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