『CITY THE ANIMATION』はなぜ“平面的”に描かれるのか 撮影処理をめぐる京アニの新機軸

京アニの歴史における『CITY』の位置付け

ところでこの『CITY』の特徴を考えたときに顕著になるのは、ここ十数年の京都アニメーション(以下、京アニ)作品とのルックの違いだ。おなじあらゐけいいち作品のアニメ化である『日常』を思い出してみればその違いは一層明らかになる。『日常』は『CITY』とおなじように短編をゆるやかにつなげる手法がとられているが、その映像自体は陰影をつけつつ自然な色調を採用し、レンズの効果を様々な場面で用いている。
『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の“達成” 京アニらしさの反転と日常のなかの彼岸
『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』はあの痛ましい事件と病禍による二度の延期を経て、2020年9月に公開された。『ヴァイ…キャラクターのしぐさを描く丁寧さといった細部の魅力もさることながら、京アニはこれまで極限まで現実に近づけたレイアウトや、撮影処理による画面の美しさによって一般的な知名度を獲得してきた。『響け!ユーフォニアム』や『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』が有名だろう(もう少しさかのぼれば、そもそも『らき☆すた』が聖地巡礼ブームの火付け役となったことが思い出される)。そのことを考えると、『CITY』は一見すると京アニの作品の中でもかなり異質な映像だという印象を受ける。本作のほとんどフラットな画面構成は、大幅な路線変更を行なっているようにも見えるかもしれない。しかしこれは筆者の目には路線変更ではないように映っている。というのも『CITY』の映像は意図的に、かつ京アニの美学に沿うように選択されたルックであるようにも見えるからだ。
思うに、京アニの作品が本当に評価されるべきなのは、写実的なレイアウトや美しい撮影処理そのものではなく、その作品ごとにもっとも重要なことを表現できる映像を作り出す点にあるのだ。美しい物語には美しい撮影を、写実性が重視されるアニメにはリアリティのある画面を。『CITY』においては、映像をフラットにすることで「描かれているもの」そのものを見せることに重点が置かれている。それでは本作では、それによって何が表現されているだろう。『CITY』公式サイト掲載の「ぷろだくしょんのーと」において、監督・石立太一は、南雲の「どうせやるなら一番たのしいやつが良い」という第1話のセリフを引き合いに出しながら、本作のコンセプトが「たのしい」と「かわいい」であるという共通認識ができたと述べている(※2)。無論キャラクターそれぞれもかわいいのだが、筆者が本作を観て感じるのは、やはり「たのしさ」である。面白さとは少し異なる「手描きの映像が動く」という、アニメーションのもっとも根本的な、そして本来的に備わっているたのしさが『CITY』には満ちあふれている。

そしてこの魅力を最大限表現することに、描かれているものをそのまま映そうとする『CITY』のルックは貢献しているように思われる。撮影処理をできるだけ削ぎ落としてむき出しの映像そのものを撮ろうとすることはすなわち、画面全体の美しさや情景というよりもその画面の中で起こっていること、キャラクターたちの運動を前面に押し出すことになる。それは、視聴者たちにもそのキャラクターたちの運動……『CITY』のコンセプトにつながるような映像の「たのしさ」に目を向けさせることにつながっていくだろう。『CITY』は撮影処理を極限まで減らすフラットな映像を採用することで、街のそれぞれの場所で起こるたのしい映像が均等に、かつ濃密なものであるということが表現されている。そしてそれこそが、本作の最大の魅力ではないだろうか。
キャラクターが生き生きと動くことの「たのしさ」、その「動き」が連鎖していくことのおもしろおかしさが本作の中心であることは、一目見れば明らかだ。連鎖するたのしい映像が「街」全体にうっすらとした連なりを生み出していて、本作を貫く物語をゆるやかに形成している。そうしたたのしさに満たされた街そのものを描き切り、かつその魅力を最大限に引き出すためには、恐らくむき出しになった平面的な映像が最も適している。このことは京アニの表現の幅の豊かさと、常にそれぞれの作品に沿うように表現を選択してきた歴史があるからこそ可能になるし、それゆえにやはり『CITY』において意図的に選択されているように思われる。そしてそれこそが京都アニメーション作品最大の魅力であると筆者は考えている。本作のルックは京アニの路線変更なのではなく、これまでの蓄積に則った「表現の拡張」なのである。
参照
(※1)こうした平面性は、一見するとかつて村上隆が展開した「スーパーフラット」という概念に接近している。しかし『CITY』においてもっとも重要なのは、その平面性が撮影処理の不在によって明らかになり、「描かれたもの」がむき出しになるという点にあるだろう。
(※2)CITY THE ANIMATION 制作を振り返って②「再会」
(https://city-the-animation.com/special/production-note/02/)
■放送情報
TVアニメ『CITY THE ANIMATION』
ABCテレビほかにて、毎週日曜24:00~放送
キャスト:小松未可子(南雲美鳥役)、豊崎愛生(にーくら役)、石川由依(泉わこ役)、川原慶久(真壁鶴菱役)、入野自由(真壁立涌役)、七瀬彩夏(真壁まつり役)、田所あずさ(雨飾えり役)、和久井優(泉りこ役)、子安武人(安達太良博士&安達太良の父役)、浅野まゆみ(安達太良の母役)、KENN(安達太良達太役)、猪股慧士(安達太良良太役)、林鼓子(安達太良かもめ役)、福嶋晴菜(安達太良うみ役)、天麻ゆうき(安達太良そら役)、宮崎遊(鬼カマボコ役)、鈴木崚汰(轟役)、山本和臣(オババ役)、水内清光(いい人役)、後藤邑子(タナベ菫桜子美役)、土門仁(穂高役)
原作:あらゐけいいち『CITY』(講談社『モーニング』所載)
監督:石立太一
キャラクターデザイン・総作画監督:徳山珠美
美術監督:山崎詩央里
色彩設計:宮田佳奈
撮影監督:植田弘貴
3D監督:加瀬達規
音響監督:鶴岡陽太
アニメーション制作:京都アニメーション
製作:CITY THE ANIMATION 製作委員会
©あらゐけいいち・講談社/CITY THE ANIMATION 製作委員会
公式サイト:https://city-the-animation.com
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