『ジュラシック・ワールド/復活の大地』に感じる懐かしさ 90年代ノリで仕切り直しに成功

『JW/復活の大地』に漂う“90年代感”

 そこのけ、そこのけY2K。真空パックされた90’sサマームービーのお通りだ。というわけで『ジュラシック・ワールド/復活の大地』(2025年)である。まさかのシリーズ第7弾だ。

 最先端技術で恐竜を復活させ、お客様に開陳する夢の娯楽施設「ジュラシック・パーク」。しかし、薄給でコキ使われたプログラマーがブチギレて、恐竜たちが大暴走。人がいっぱい食われて、パークの開業は夢と消えた……どっこい、アメリカ人はネバー・ギブ・アップ! 頑張って遂に堂々オープンにこぎつける。世界中から観光客が押し寄せる人気スポットになったが、例によって恐竜が大暴走。再び多数の死者を出したうえに、恐竜たちが外の世界に逃げ出してしまう。かくして世界は恐竜と人間が共存する「ジュラシック・ワールド」になったのであった。それからまた数年……。恐竜たちは現代の地球環境に適合できず、生存区域は赤道周辺に限定されていた。その地域は立ち入り禁止となっていたが、ある企業の偉い人が、恐竜から心臓病の特効薬を作れると発見。夢の新薬を実現するために、傭兵と研究者たちが恐竜の世界へ足を踏み入れる。そこに何も知らずボートで旅行をしていたアウトドア一家も紛れ込んできて……。

 ……という、広がりまくった大風呂敷からの新章である。正直なところ、『ジュラシック・パーク』(1993年)感はゼロに近い。恐竜が当たり前にいる世界が舞台なので、登場人物も恐竜にそこまでビックリしないからだ。完全に別世界の話にしか見えず、1作目のときのような「ひょっとしたら現実に実現するかも?」というロマンも消えてしまった。

 かと言って、本作は「面白くない」と切り捨てることもできない。特に1990年代のハリウッド映画を観て育った人間としては。というのも……本作、全体的にすごく90年代っぽいのである。冒頭を飾る仕事猫も裸足で逃げ出す人災を超えた人災、絵に描いたようなタンクトップのワイルド女傭兵を演じるスカーレット・ヨハンソン、小粋なジョークだけで会話するので逆に小粋なのか分からない傭兵軍団、ジョナサン・ベイリーに眼鏡と襟付きシャツを着せるだけで、どう見てもガタイが良すぎるのに「博士」と言い張るスタンス、露骨にセット感が溢れる遺跡……。ハリウッド映画と聞いて思い浮かぶテンプレ通りだ。しかしテンプレはテンプレだが、今日日このテンプレを持ち出してくるのが珍しい。

 そんな人間サイドのテンプレ感に対し、恐竜サイドは少し様子がおかしい。監督を務めたギャレス・エドワーズは、モンスター大好きっ子だ。今回は彼の80~90年代のハリウッド映画愛が爆発。偉大なる先輩スティーヴン・スピルバーグを追いかけるかの如く、手堅いアクション演出を見せている。

 そして初お目見えの時に世界中から「君これエイリアンやないか」と指摘されたオリジナル恐竜“ディストートゥス・レックス”をブッ込むだけにとどまらず、なんとなく『エイリアン』(1979年~)シリーズっぽいビジュアルが連発。モササウルスとの海洋チェイスは『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(2022年)的なリアリティがあり、リドリー・スコットやジェームズ・キャメロンへのリスペクトも感じた(思えばスカーレット・ヨハンソンも完全にキャメロン映画から抜け出てきたようなキャラである)。こうした80~90年代のハリウッド映画の巨匠らに愛を捧げつつ、監督が愛する巨大生物同士のラブシーンを入れてくるあたり、ギャレスは抜け目ない男である。

 残念ながら、本作に1作目のような革新性はないし、シリーズを仕切り直した『ジュラシック・ワールド』(2010年)ほどの華々しさもない。端的に言うと『ジュラシック~』の正当シリーズというより、『ジュラシック・ワイルド/ダイナソー・ミッション』みたいな邦題でリリースされていそうな映画だ。けれど手堅くまとまった面白さと、どこか懐かしさを感じる90年代のノリは確かに存在する。それにシリーズの仕切り直しには成功した。今後は、あの区域に向かう話で無限に作れるだろう。夏休みのお昼に、おばあちゃんの家で、そうめんでも食べながら観たい1本である。なお、私の横で観ていた10代半ばくらいの2人は「最高の映画だったね。悪い人がみんな死んだから」と絶賛していた。この言葉が聞こえただけでも、もう良いような気もする。

 ちなみに、傭兵軍団の気のいいリーダーを演じていたマハーシャラ・アリだが、相変わらずすごく良かったので、早く彼が主演予定のリメイク版『ブレイド(原題)』を完成させてあげてください。

■公開情報
『ジュラシック・ワールド/復活の大地』
全国公開中
出演:スカーレット・ヨハンソン、マハーシャラ・アリ、ジョナサン・ベイリー、ルパート・フレンド、マヌエル・ガルシア=ルルフォ、ルナ・ブレイズ、デヴィッド・ヤーコノ、オードリナ・ミランダ、フィリッピーヌ・ヴェルジュ、ベシル・シルヴァン、エド・スクライン
日本語吹替版キャスト:松本若菜、岩田剛典、吉川愛、楠大典、小野大輔、高山みなみ、大西健晴、玉木雅士、三上哲、水瀬いのり、小林千晃ほか
監督:ギャレス・エドワーズ
脚本:デヴィッド・コープ
キャラクター原案:マイケル・クライトン
製作:フランク・マーシャル、パトリック・クローリー
製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ、デニス・L・スチュワート
配給:東宝東和
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公式サイト:https://www.jurassicworld.jp/
公式X(旧Twitter):https://x.com/jurassicworldjp

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