『僕達はまだその星の校則を知らない』“健治”磯村勇斗の自己開示がもたらす分岐点

『僕達はまだその星の校則を知らない』(カンテレ・フジテレビ系)第5話では、夏の夜空に願いを込めた。
天文ドームが夏の間閉鎖されることになった。あきらめきれない高瀬佑介(のせりん)たちは、健治(磯村勇斗)に頼みこみ、健治の家で天文部の合宿をすることになった。自宅に人を招くことを祖母の可乃子(木野花)は心配するが、健治は当日に向けて準備を進める。
合宿当日、生物科学部の内田(越山敬達)も参加し、健治の家へ向かう一行。とびきりの笑顔に観ているこちらも心が浮き立つ。珠々(堀田真由)も同伴するが、珠々の中ではこれまでと違う予感があった。
高校の部活に関連してネガティブなニュースが飛び交う中で、ドラマの中だけでも夏らしい解放感を目にできてほっとした。家族で観る夏休みの長編アニメや冒険ものに通じる躍動感は、俗世を離れた天体観測という題材も影響しているかもしれない。
三浦半島と思われる健治の家で、夜の天体観測にそなえて昼寝する生徒たち。その間に健治と珠々にアクシデントが発生する。宮沢賢治を愛してやまない珠々が健治に惹かれていることは前話で描かれていたが、健治の「ムムス」も伝染し、台所での接触に至る過程は10代の恋愛のような初々しさを放っていた。
自由な時間は、星座を前にして最高潮に達する。白鳥座のアルビレオを見て『銀河鉄道の夜』のフレーズを口にする珠々。流れ星を数えたり、江見(月島琉衣)が唐突にSF小説を披露するシーンは青春感が満載だ。そうかと思えば、江見の空想(ダークマター!)に触発されて、星空の下で戦争のない世界を祈るのも、終戦記念日を控えたドラマと現実がリンクして「今」「ここ」の話になっていた。
第5話で特筆される点は、主人公の自己開示があったことだ。第1話の冒頭で、健治が自分のことを語るシーンがあった。相手の顔はわからなかったが、第5話で相手が珠々だったことが明らかになる。
一睡もしていない身体的状況、日常から解き放たれて「誰かと星を見た」高揚感、生徒を家に上げ「テリトリーに招き入れる」ことで得た信頼関係、それらすべてが健治の中でつながり、感情の高まりとして表出したとき、目の前に珠々がいた。珠々は亡くなった母の芙美(村川絵梨)と同じように、健治の言葉を受け止めることのできるキャラクターだ。
健治の告白は、発達特性を持つ少年が周囲の世界を受け入れ、協調する過程を浮き彫りにする。共感覚に近い健治の感性を「わかってくれたのは母だけ」で、「自分は普通じゃない」と気づく過程が健治の少年時代だった。父の誠司(光石研)やクラスメートは、決して健治の居場所にならない。健治は疎外されており、そのモノローグは痛みの感覚をともない、その一歩一歩は苦しみに満ちていた。
「普通」を求められて苦しむ健治が見つけたのが、法律の世界だったことは象徴的だ。属人的でなく、普遍性を志向する法と出会うことで、健治は、自分がこの世界にいてもいいと考えることができたのだろう。のちに弁護士になる健治だが、法律分野に適正があったことは、健治にとって幸運なことだった。
健治の告白はあらかじめ予告されており、時系列で言うと、第5話は物語の分岐点になっている。自己開示した健治には変化の兆候が見られるが、誠司や理事長の尾碕(稲垣吾郎)を含む周囲との関係性は未解決のままである。ドラマ後半では、周囲とのあつれきや親子関係が描かれると予想される。願わくば、宮沢賢治の世界にも通じる、幻想的な詩心の宇宙が消えずに残ってほしいと思う。
何事にも臆病で不器用な主人公が、共学化で揺れる私立高校にスクールロイヤー(学校弁護士)として派遣されることになり、法律や校則では簡単に解決できない若者たちの青春に、必死に向き合っていく学園ヒューマンドラマ。
■放送情報
『僕達はまだその星の校則を知らない』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00~放送
出演:磯村勇斗、堀田真由、平岩紙、市川実和子、日高由起刀、南琴奈、日向亘、中野有紗、月島琉衣、近藤華、越山敬達、菊地姫奈、のせりん、北里琉、栄莉弥、淵上泰史、許豊凡(INI)、坂井真紀、尾美としのり、木野花、光石研、稲垣吾郎
脚本:大森美香
音楽:Benjamin Bedoussac
主題歌:ヨルシカ「修羅」(Polydor Records)
監督:山口健人、高橋名月、稲留武
プロデューサー:岡光寛子(カンテレ)、白石裕菜(ホリプロ)
制作協力:ホリプロ
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
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