柳葉敏郎の演技はなぜ記憶に残るのか? 『明日はもっと、いい日になる』で新境地を開拓

放送中の月9ドラマ『明日はもっと、いい日になる』(フジテレビ系)は、主演の福原遥を筆頭に、林遣都や生田絵梨花、勝村政信に風間俊介といった優れたプレイヤーが勢揃いし、ときにシビアで、ときにハートウォーミングな人間ドラマを織り成していくものである。そこには苦しい現実が描かれていたりはするものの、どことなく涼しげな作品だともいえるのではないだろうか。それはなぜか。いつも笑顔を絶やすことのない人間がいるからだ。柳葉敏郎が演じる南野丞のことである。
本作は、海沿いの街にある浜瀬市児童相談所をおもな舞台としたもので、ここに主人公の夏井翼(福原遥)が浦ヶ崎警察署から出向してきたことによって物語がはじまった。刑事であった翼が相手をするのは、凶悪犯ではなく子供たちに。彼女は戸惑いながらも仲間たちの力を借りて、まだ幼い子供らと向き合う日々だ。
そんな作品で柳葉が演じている南野丞は、翼の新たな勤め先の一時保護所で課長兼保育士をしている人物である。エプロン姿がトレードマークで、屈託のない笑顔がチャーミングポイント。主人公の翼は強い正義感の持ち主だが、社会人としてもひとりの人間としても、まだまだ若い。翼とバディを組む蔵田総介(林遣都)は愚直な人間だが、愚直なだけに危なっかしいところがある。この児童相談所の“蜂村班”のリーダーである児童福祉司の蜂村太一も決して完璧な人間ではない。子供たちを笑顔で迎え、迷える大人たちをも包み込むのが、南野丞という存在なのである。誰もが彼に癒されている。

早いもので、物語はもう折り返し。翼の視点を介して浜瀬市児童相談所へやってきた私たち視聴者は、児童福祉司がどのようなものなのかを理解し、翼と関係する者たちがどんな問題を抱えているのかを理解していることと思う。ときにはもどかしい気持ちにだってなるだろう。できることなら寄り添ってあげたい。けれどもいち視聴者に過ぎない私たちには、何もできない。だがこの物語に登場する人々には、南野丞がいる。あの笑顔がある。彼はあくまでも俳優・柳葉敏郎の演技によって成立しているキャラクターだと誰もが理解しているだろう。しかし、柳葉の演技表現において作為性が希薄だと感じているのは私だけだろうか。
俳優たちが浮かべる笑顔というものは、作為性によって生まれているものだ。言ってしまえばすべてが“作り物”である。もちろん、怒った顔も、悲しげな顔もそう。けれども本作における柳葉は、心から笑っているように思える。彼がセリフを口にする際の穏やかさもそうだ。こちらに関してはある程度は意識的にそうしているのかもしれない。が、彼の表情から読み取ることのできる心の動きと口調やセリフが一致していることもあってか、“作り物”であることをたびたび忘れてしまう。これは私だけだろうか。

ここに対極的な例を出してみよう。長いキャリアを持つ柳葉には数多くの代表作があるが、やはりそのうちのひとつが『踊る大捜査線』シリーズ(1997年〜/フジテレビ系)である。同作で演じた室井慎次役は彼の当たり役・ハマり役となり、映画『容疑者 室井慎次』(2005年)をはじめ、このキャラクターを主人公に据えた作品がさらに2作も制作されたほどだ。このページにたどり着いた方のどれくらいが“室井慎次”というキャラクターと馴染みがあるのか分からないが、かつてはモノマネをされるほどの存在だった。モノマネをされるというのはつまり、視聴者/観客にとってその特徴を掴みやすい、非常にキャラクター然としたものであるといえる。あの渋面や表情筋のアプローチは、演じ手の意図が見えるものだった。

南野丞と室井慎次は、まさに対極的な役どころだといえるだろう。そもそも作品性がまったく違うのだから、演技のアプローチが変わるのは当然のこと。しかし室井慎次がフィクショナルな“作り物”であることを前提としたうえで愛すべきキャラクターであるのに対し、南野丞はきっといまの日本のどこかにいる。そう思える存在だ。南野丞は彼の新たな当たり役にしてハマり役だと思う。“柳葉敏郎=南野丞”の成立の秘密を知るべく、『明日はもっと、いい日になる』の後半戦も追いかけていきたいものである。
児童相談所を舞台に、そこで働く個性的な面々たちがこどもたちの純粋な思いに胸を打たれ、その親までも救っていく姿描く完全オリジナルストーリーのヒューマンドラマ。
■放送情報
『明日はもっと、いい日になる』
フジテレビ系にて、毎週月曜21:00~21:54放送
出演:福原遥、林遣都、生田絵梨花、小林きな子、濱尾ノリタカ、莉子、西山潤 町田悠宇、勝村政信、風間俊介、柳葉敏郎ほか
脚本:谷碧仁(劇団時間制作)ほか
演出:相沢秀幸、下畠優太、保坂昭一
プロデュース:宮﨑暖
主題歌:JUJU「小さな歌」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
制作プロデュース:熊谷理恵、三浦和佳奈
制作協力:大映テレビ
制作著作:フジテレビ
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