『あんぱん』“毒親”登美子の干渉に嵩とのぶはどう答える? 幸福の意味が問われる“戦後”

7月29日に放送された『あんぱん』(NHK総合)第87話では、一足早く嫁と姑のバトルが繰り広げられた。
突然訪ねてきた登美子(松嶋菜々子)は少し様子がおかしかった。「よくぞ生きて帰ってきてくれました」と酒瓶を持参したのは、嵩(北村匠海)が南海地震で無事だったことを指しているのだろうか。登美子が前回登場したのは第50話で、出征する嵩に「生きて帰ってきなさい」と声を張り上げて憲兵ににらまれて以来なので、終戦後に会ったのは今回が初めてという可能性もある。

登美子は3度目に結婚した軍人の夫に先立たれ、目白にある家で暮らしている。髪に白いものは見えるが、容姿の衰えは言われないと気づかない。嵩とは手紙で消息を通じており、今回の上京も嵩が知らせたもののようだ。座が温まるや登美子は間髪を入れず、のぶに切りだした。
「新聞社も辞めてしまった無職の嵩でいいの?」

いっきに酔いが醒めそうだ。冷や水を浴びせるとはこのことで、毒親の健在ぶりを知らしめた。のぶ(今田美桜)は満面の笑みで嵩の漫画を応援すると答える。登美子に問い詰められても「嵩の才能を信じている」と揺らがなかった。そうするうちに登美子の矛先はのぶに向き、「嵩をそそのかすのはやめてちょうだい」とのぶに原因があるかのような口ぶりで責めた。
のぶと登美子の言い合いを複雑な表情で見守る嵩は頼りない。登美子の「あなたがしっかりしないからいけないのよ」に理不尽さを感じつつ、その通りだと思ってしまった。嵩は八木(妻夫木聡)に愚痴をこぼす。大人のエレベーターではないけれど、なんだかんだ言って話を聞いてくれる八木は優しい。

登美子が嵩に言いたいのは、所帯を持つならまともな仕事につけということ。住まいや結婚式まで細かく干渉する母親は嫌われそうだが、百貨店で宣伝部の社員を募集していると教えたのも登美子だった。男性が女性を養うべきという旧来の考えに縛られている登美子は、女性でありながら家父長制を内面化したキャラクターといえよう。
のぶは嵩の漫画を応援しようと考え、そのためなら多少の苦労はいとわないと決意している。嵩の仕事の世話を焼く鉄子(戸田恵子)にも同じ趣旨を答えている。「たっすいが」を𠮟りつけるのぶの方が、男女同権について進んだ考えを持っている。

誰のための幸せなのか、という視点は今作において重要だ。「逆転しない正義」のありようを考えるとき、個々の幸福をなおざりにすることはできないからだ。児童福祉法が成立して戦災孤児の処遇が改善されても、アキラ(番家玖太)はさして興味がないように見える。それぞれにとっての幸福が問われる戦後である。
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK





















