『DOCTOR PRICE』は岩田剛典の“代表作”となる 作品間で連動する“野球”が導く演出

比嘉愛未とのW主演ドラマ『フォレスト』(2025年/ABCテレビ・テレビ朝日系)がまだ放送後の余韻を楽しませてくれているというのに、今度はあざやかな若手俳優・蒔田彩珠をバディ役に主演ドラマ『DOCTOR PRICE』(読売テレビ・日本テレビ系)で視聴履歴は快く更新される。岩田剛典が、医師専門転職エージェント“Dr.コネクション”代表である主人公・鳴木金成を演じる本作は、劇団EXILEの舞台『あたっくNo.1』(2013年)で俳優デビューした岩田にとって紛れもない「代表作」だと位置付けられる。
極東大学病院の勤務医時代が描かれる第1話冒頭、颯爽と登場した鳴木が掃除用モップを構えて上司のハラスメントを告発したかと思えば、それを理由に自分は退職金を得てさっさと自主退職してみせる。モップの華麗なスイング感よろしく、この発端と状況説明(前提)をドラマ開始6分ほどで隙なく凝縮する岩田の演技に舌を巻いた。退職後の鳴木が医師の値段(DOCTOR PRICE)を扱う転職エージェントを稼業とする現在では、勤務医時代から伸ばした髪を後ろで結び、ビジュアルのコントラストまで手際よく付けている。
『フォレスト』では岩田演じるクリーニング店主・一ノ瀬純が熱心にアイロンがけする表情を捉える的確なローアングルが初登場場面であり、彼の手元から間歇的に吹き上がる蒸気が画面をしっとり潤わせていた。この場面は第1話冒頭30秒ほど控えめに配置されながら、ドラマ開始早々ここぞという瞬間に早くも見せ場となるワンショットが極まる。その上で主演ドラマ『DOCTOR PRICE』開始6分までの手際のよさをほんの肩慣らし的軽業くらいに理解しつつ、「代表作」と銘打つべき本作でもワンショット極まる瞬間を早いところ目撃したいと期待が高まる。
とはいえ、第1話にはその期待に即応するだけの力強いワンショットがまだ配置されていないように思えた。だから代わりに演技のテンポ感としてもビジュアル的にも手際がいい軽業を披露してお茶を濁してくれたのだろうけれど、肝心のそれを第2話ラストで着実に配置する用意周到な演出こそ、代表作に相応しい本作の手堅さだろう。本題に入る前にもう少しだけ確認のため迂回を試みる。

本作におけるここぞというワンショットをはっきり導くもの。それは意外なことに“野球”である。正確にいえば、岩田が出演する作品の画面上にさりげなく写り、彼の演技を際立たせる場所として野球グラウンドが設定されることが多い。野球繋がりという意味でもう一つ、作品間で連動する岩田の代表作的ドラマ作品の話題について触れなければならない。二組の倦怠期夫婦を描いた、奈緒主演ドラマ『あなたがしてくれなくても』(2023年/フジテレビ系)である。
第1話終盤、同じ建設会社で働く主人公・吉野みち(奈緒)と新名誠(岩田剛典)が花見会を抜け出す夜の場面。買い出しを口実にする新名が「ちょっといいですか」と言う瞬間に聞き逃せない音がある。細やかに音響処理されたその音はバットが野球ボールを打つ鈍い音。花見中の彼らが会社の面々と座る画面外から不意に聞こえてくる。誰もが聞き逃してしまうかもしれない。でもこの一音以降、みちと新名はほとんど現行犯的な不倫関係になる。つまり、ボールを打つその一打音が不倫以前以後の分節をはっきり作った。という重要な音響だったのだ。
『あなたがしてくれなくても』みちと誠は単純な不倫ではない “セックス”は何を示す?
みち(奈緒)と誠(岩田剛典)は、お互いに夫婦間のセックスレスに悩む“戦友”として親しくなったはずだった。ただパートナーに愛された…実際、その一音に誘われ、導かれるようにみちと新名が抜け出した先は野球グラウンドだった。場面を構成するワンカット目、みちの方を振り返りながら前を歩く新名の背景にはライトが点いたグラウンドが広がる。そのグラウンド内で片方の野球チームが勝利を喜ぶ画面奥に対して、手前では不倫(未遂)に揺れる二人の心情を手持ちカメラが可視化する。カメラはみちの前方に回り込み、並んで歩くツーショットになる。この長い回しツーショットで画面右手(上手)に位置する岩田の演技が、慎ましい官能の触手でも伸ばすかのように色っぽい表情を浮かべ視聴者をとろかす。
カットが替わり、グラウンドを背景に画面奥から手前を歩くみちの元へ走る新名が「うちもセックスレスなんだ」と物語を決定的に動かす台詞を放つワンショットを含め、岩田剛典の演技がボールを打つ一打音を呼び水として野球グラウンドという空間に導かれることでここぞという瞬間に際立つ。






















