『こんばんは、朝山家です。』は時代に抗うドラマだ 足立紳が引き受けた“損な役回り”

『こんばんは、朝山家です。』は時代に抗う

 足立はあえて時代に抗う損な役回りを引き受けている。それはこんなやりとりからも明らかだ。

 朝子が売り込んだ脚本に対し、担当プロデューサーの梶本(宇野祥平)は難色を示す。「まあ、家族のことを書かれるのはいいんですけどね。やっぱりこうぉ、もっと社会性っていうのか、なにか引っかかるものがほしいかな。海外映画祭なんかも狙いたいんですよね」と。朝子は殊勝に頷きつつ、こう切り返す。

「朝山は1つの家族を描くことで、それが社会を描いているんだっていうことにもなると思ってるんですよね」

 企画書の表紙には『夜山家の人々』と印字されている。どう考えても『こんばんは、朝山家です。』をもじったものであり、賢太に足立自身の思いを語らせるメタフィクションになっている。

 しみじみよかったのは、冒頭の家族会議のあとに差し込まれた朝子のモノローグだった。

 賢太は、映画を監督するのが長年の夢だ。ああ見えても、たまに面白い脚本を書くし、その夢は、なんとか叶えてやりたい。でも、屁みたいなプライドが異様に高いから腹も立つ――。

 これぞツンデレであり、“ツン”が悪目立ちするのは“屁みたいなプライド”のなせる技だ。朝子の苛立ちは大いにわかる。賢太は画面越しに接する分にはいいけれど、実際に半径数メートル内にいればかなりストレスを感じさせる類いの人間だ。

 損な役回りを引き受けている──と書いたが、買いかぶりではないかと怪しむ向きもあるかもしれない。賢太が足立の代弁者だとすれば、ホームドラマのフォーマットを採用したのは承認欲求をこじらせた結果に過ぎない、というわけだ。

 その反論に与するならば、それこそ足立の思うツボである。賢太の人物造形は、足立の照れ隠しとしても機能しているのだから。

 とまれ、家族の悲喜こもごもを笑いに昇華する手腕はお見事である。予期せぬ別れも訪れるそうだが、朝山家なら明るく乗り越えてくれるはずだ。

『こんばんは、朝山家です。』の画像

こんばんは、朝山家です。

足立紳が自身の連載日記『後ろ向きで進む』をベースに執筆したホームドラマ。“キレる妻”と“残念な夫”という衝突不可避の夫婦が、罵倒と叱責、ときどき愛で、家族の難題を切り抜けていく。

■放送情報
『こんばんは、朝山家です。』
ABCテレビ・テレビ朝日系にて、毎週日曜22:15~放送
TVerにて放送終了後見逃し配信
U-NEXT、Prime Videoにて全話配信
出演:中村アン、小澤征悦、さとうほなみ、小島健(Aぇ! group)影山優佳、渡邉心結、嶋田鉄太、土佐和成、佐野弘樹、竹財輝之助、河井青葉、丸山智己、宇野祥平、松尾諭
脚本:足立紳
原案:足立紳・足立晃子『ポジティブに疲れたら俺たちを見ろ~ままならない人生を後ろ向きで進む~』(辰巳出版)
音楽:海田庄吾
主題歌:FUNKY MONKEY BΛBY'S「Come back home」(UNIVERSAL MUSIC / Polydor Records)
監督:足立紳、小沼雄一、安村栄美
制作協力:S・D・P
制作著作:ABCテレビ
© ABCテレビ
公式サイト:https://www.asahi.co.jp/asayamake/
公式X(旧Twitter):@drama_asayamake
公式Instagram:@drama_asayamake
公式TikTok:@drama_asayamake
公式LINE:@abc_drama

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる