『鬼滅の刃 無限城編』で発揮された石田彰の真価 猗窩座の過去編に込められた悲哀と人間性

7月18日より、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』(以下、『無限城編 第一章』)が公開された。TVアニメの放送をきっかけにすさまじい盛り上がりを見せた『鬼滅の刃』は、原作漫画の完結から5年が経っている。空前のブームから少し時間が経ち、『無限城編 第一章』はいったいどれほどの観客を集めるのか、注目されていた。結果は、公開初日から劇場がごったがえすほどの大盛況だ。
以下、『無限城編 第一章』のネタバレを含みます。
本作で最もフォーカスされたのは、竈門炭治郎の因縁の相手である猗窩座だ。彼は『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』にて炭治郎が慕う煉獄杏寿郎を殺し、“上弦の参”という高い地位を与えられている強力な鬼。そんな猗窩座を演じているのが、石田彰である。
劇中で、「弱い奴は嫌いだ」というセリフを何度も繰り返す猗窩座。加えて、強い相手と戦えることを楽しんでいる様子を見せる。猗窩座の戦闘狂じみた性格は、戦闘でいきいきとする不敵な石田の芝居によって表現されている。石田のカリスマ性を持った演技が、猗窩座という役どころと見事にマッチしているのだ。

『無限城編 第一章』において、猗窩座は登場シーンから異様さを放っていた。建物を突き破って猗窩座が現れると、彼の迫力を物語るように重低音が鳴り響き、無限城はバトルステージ仕様にさらに形状を変えた。炭治郎と冨岡義勇が一進一退の攻防を繰り広げるものの、猗窩座の圧倒的な力を前に追い詰められてしまう。覚醒した炭治郎に首を斬られるが、猗窩座はまだ倒れず、ボロボロになった2人にとどめを刺そうとした。その瞬間現れたのが、猗窩座が愛した恋雪の幻であり、彼が人間だった頃の記憶だ。
猗窩座が人間だった頃、つまり狛治だった頃の声も、石田が務めている。狛治は、ただ大切な人を守りたいだけの少年だった。病気の父親に薬を買うためにスリを繰り返し、腕には罪人の証である入れ墨を入れられた。それでも、父親のためならつらくなかった。かくまわれた道場では、師匠・慶蔵の娘である恋雪を付きっきりで看病する。それでも、やはりつらくはなかった。
慶蔵は、狛治のことを神社を守る狛犬に例え、「なにか守るものがないと駄目なんだよ」と言った。狛治の“大切な人を守りたい”というピュアな気持ちは、石田の演技にも表れている。石田のカリスマ性や不敵さがこのときばかりは影を潜め、ただひたすらに、愚直なまでに他人に尽くす少年がそこにはいた。狛治にどうにか報われてほしいと、私たちが願ってしまうほどに。




















