『あんぱん』『最後の鑑定人』で注目度急上昇 中沢元紀が視聴者を掴んで離さない理由

人の気持ちをしっかり汲み取れるからこそ親切で、自分の人生における志も高い。きっとこれからの世の中を変えてくれる偉大な人になるに違いない、そう思っていた矢先に戦争が始まって、NHK連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合)の千尋(中沢元紀)の人生は大きく変わってしまった。
千尋の兄の嵩(北村匠海)と、2人の幼なじみ・のぶ(今田美桜)の人生にこれからも当たり前に存在していくだろうと思っていたから、千尋がいなくなったことには嵩と同じくらい視聴者もショックを受けたのではないだろうか。

その千尋を演じたのは、今を時めく俳優・中沢元紀だ。筆者が彼のことを知ったのは『下剋上球児』(TBS系)だった。同作で中沢は、期待のピッチャーだったものの、受験に失敗して強豪校に入学できず、弱小野球部がある高校に入学することになった翔を演じていた。悶々とした感情を抱えている彼だが、さらに大地主の祖父からの期待も強く、そのどうしようもない気持ちへの苦しさは計り知れない。それでも野球部には欠かせない存在で、仲間たちと過ごすうちに心境が変化していく、物語の軸となる役柄を演じ切った。
また、2024年には広瀬アリス主演ドラマ『366日』(フジテレビ系)に出演。事故で記憶を失ってしまった遥斗(眞栄田郷敦)の大学時代の後輩で、遥斗の妹・花音(中田青渚)と交際中の竜也を演じた。コロナ禍で無職になり、さらには慕っていた先輩が記憶喪失になってしまうという状況下で、頼りないながらも花音をしっかり支えるストレートな役柄だった。暗くなりがちな物語の中で、明るく元気に振る舞い、バランスを取ってくれる大切なキャラクターだ。さらに、『下剋上球児』で同じ野球部のチームメイトを演じた小林虎之介とドラマ『ひだまりが聴こえる』(テレビ東京系)ではW主演に。中沢演じる難聴を患う大学生・航平が、授業を一緒に聴講してノートを取ってくれることになった太一(小林虎之介)と関わるうちに、塞いでいた心に光が灯っていく物語だ。このドラマでは、ある日を境にだんだん聞こえなくなっていく病との葛藤や苦悩を全力で体現した。
ここまで述べてきた作品に加えて、ドラマ『埼玉のホスト』(TBS系)、映画『沈黙の艦隊』『さよならモノトーン』『ファストブレイク』といった出演作は、全てこの2年以内に公開されたものだ。2022年にデビューしたばかりの彼の人気がそれだけ勢いづいていること、そして多様なキャラクターの人生を全うしてきたことがわかる。戦前の時代に生きる好青年から、渦巻く感情にもがく令和の高校生、病気と共に生きる大学生、暗闇を明るく突き進む社会人まで。どの時代の物語にも違和感なく溶け込むことができる上に、存在感を失わない彼の独特な俳優としての立ち位置は、これからより注目されていくことになるだろう。戦国時代や江戸時代、はたまた遥か未来を生きる中沢の姿も見てみたいものだ。





















