北村匠海だからこそ表現できる成長のグラデーション 『あんぱん』嵩としての半生を振り返る

北村匠海だからこそ表現できる嵩の成長

 嵩はその後、のぶと同じ新聞会社で働くことに。のぶにピンチが訪れる度に、すっと手を差し伸べる嵩の姿は、凛々しくも映る。第76話では、取材のために代議士の薪鉄子(戸田恵子)の元へ向かったところ、のぶがガラの悪い男の撮影をしたことで、「いい度胸しているなぁ」と絡まれることに……。

 のぶを助けた嵩は、男から「痛い目に遭いたいのか」と睨まれるが、毅然とした様子で「好きなだけどうぞ。慣れてますんで」と切り返す。軍隊生活を経て、すっかり肝が据わっていた嵩の姿は、かつてとは見違えるものだった。第80話では、編集長の東海林(津田健次郎)から「記者にむいちょらん」と告げられるのぶ。それまで、相変わらずのぶに向けてオロオロした目線を送っていた嵩が、その言葉を聞くなり目線が鋭くなる。

 それから嵩は、のぶを助けるために「編集長、その言い方はないと思います」と強い口調で言い放つ。嵩は目を潤ませ、のぶを一瞥する。「のぶちゃん、大丈夫だから」。そんなのぶへの切ない想いを感じ取ることができる、優しい瞳だった。

 嵩はいつも、相手と闘わずして誰かを守ろうと奮闘する。暴力や暴言を振るうのではなく、虎視眈々とした様子で相手を観察しながら、どう振る舞えばいいのかをじっくり考えている。そんな意志の強さも、ほんのり充血した嵩の目から滲んでいた。

 嵩は不器用で、気の利いたことが言えるタイプではない。ただ、学校、小倉連隊、新聞社、のぶの前などで静かに人間観察を続け、いざという時にはサッと手を差し伸べることができる。そんな嵩の姿が、優しさと愛、勇気に溢れ、困った人に手を差し伸べるアンパンマンと重なった。 

 第81話では、新聞社を去るのぶに対し、嵩は「そんなことより、凄いね。のぶちゃんは」と告げる。本当は、のぶに東京へ行ってほしくない。けれども、のぶの真っ直ぐな性格や努力を傍で見てきたからこそ、彼女の決断を応援してあげたい。目を泳がせながら、ぎこちない笑顔を浮かべる嵩の姿に、今までのぶを見守ってきた思いが溢れていた。

 その後、嵩は以前渡したものの、受け取ってもらえなかった「赤いハンドバッグ」を渡すために、のぶの実家へと向かう。けれども、嵩は蘭子(河合優実)から、のぶがすでに東京へ向かったことを告げられる。その言葉を聞くなり、嵩はがっかりと肩を落とす。

 先週末に放送された第17週の予告に映る嵩は、「これから先も、ずっと僕は……」と、まっすぐな瞳で誰かに告げていた。嵩は、のぶを追いかけて東京に向かうのか。そして、これまで伝えられなかった思いを、今度こそのぶに伝えられるのだろうか。

■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK

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